第拾話 希望の空へ


Senryu-tei Syunsyo’s Novel Room(Novel-Ⅲ)
Evangelion SS「All’s right with the world」

 いくつかのエレベーターと、自走通路を乗り継いだ後。ひとつの扉の前で、解錠操作をしていたタカミが、開きかけた扉を俄に閉じてしまった。
「どうした?」
 後方を警戒していたイサナが振り返る。
「いえ…」
 手元に視線を落としたまま硬直しているタカミを見て、イサナがすいと前へ出て扉に手を掛けようとした。間にはレイがいたが、そのレイがいつ通り抜けたか判らないほどに静かな動作であった。
「…ごめんなさい、イサナ」
 だが、そのイサナの手をタカミが止めた。
「ここは迂回します。…一つ前の通路に戻って、タラップで降りましょう。…床面、C7の表示を探しておいてくれませんか?」
 非常灯の淡い光の中でも、タカミの頬から血の気が引いているのが判った。
「僕は…あとからすぐ追いつきます」
 イサナは怪訝な顔をしたが、ふと扉のプレートに刻印された文字列に目を走らせた。そしてもう一度、タカミの蒼白な顔に視線を戻してから、扉からゆっくりと手を離す。
「…手伝うことは、あるか?」
「大丈夫です。彼女を頼みます」
「判った」
 イサナはそれ以上何も訊かなかった。戸惑うレイを促して、イサナが通路を戻る。その姿が視界から消えるのを待って、タカミは扉に向き直った。

    CORE UNIT PLANT for DUMMY SYSTEM

 錆び付いたプレートを指先でなぞる。血の気の引いた顔のままではあったが、その口許には笑みが戻っていた。
「…やっぱりこれは、僕の仕事だよ。とても、レイちゃんには見せられないけどね」
 そしてもう一度、扉を開ける。

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***

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 ―――――君の声が聞こえる。
 闇の中で、泥沼の中から引き上げられるような感覚。
 他には何も感じることができない。ただ、彼を呼ぶ声だけが意識を繋ぎ止めた。
 ―――――どこにいるの。
 身体はおそろしく重く、思考は働かない。だから、自身を確認するためにカヲルはその呼び声に意識を傾けた。そうすることで自分自身が拘束されていることに気がつく。何が拘束しているのかは判らない。ただ、重い。鬱陶しい。自分自身でいようとすることを押さえ込もうとする力が疎ましい。
 この疎ましさから逃れる方法があるだろうか。
 動かない思考の中で必死に考える。
 自身を制限しているものは何か。
 この動かない身体だ。忌まわしいモノで本来の機能を抑制され、囚われているこの身体。ここから離れることができれば…あの声に応えることができる。
 方法があるか?…あるはずだ。
 かつて、ひとつの冴えたやり方を見た。自身の自由を制限している者達に、 本体メインフレームを敢えて攻撃させ…地上から消し去ることで自由を得る方法を択った者を、カヲルは知っていた。
 この身体を消し去る。だが、それすらも今はままならない。方法を探そう。そうするには、ここに居てはどうにもならない。…この身体を消し去るための手段が必要だ。
 手段を探せるか?…出来る。この世界を覆うネットワークに干渉し、自身に適合するデバイスを検索し有効にする。
 ネットワークへの干渉、デバイスの検索。…出来るか?

***

「うー…しんどいよぅ…」
 地上。廃屋となったビルの屋上で哨戒を続けていたミスズは、結界が完全に破壊されたことでより強く感じるようになったカヲルの思念…というより自己破壊に向かう一歩手前の絶望感に巻き込まれかかっていた。
「気持ち悪い。泣きたい。胸が潰れそう」
「ミスズ、 ウチまで退がったほうがよくないか?」
 ナオキの言葉は半ば本人に、半ばは相棒に向けられたものだった。
「そうだな、リエ姉に言って…」
「…やだ」
 ユウキが半身振り返って言いかけた台詞を遮って、ミスズが呻くように言った。
「私がここから逃げたら…このパーティの攻撃力、ゼロじゃない」
「うわ、容赦ない」
 ナオキは憮然としたが、ユウキのほうは至極客観的に指摘する。
「…まあ、俺達に喧嘩が出来ないとは思わないけど…確かにこの距離から研究所をどうこうする手段はないな。でも、それについては…ミスズだって通常弾での狙撃以上のことはできないよ」
「判ってる…判ってるけど…あ」
 地震。先刻のそれと同様に、震源は間違居なくジオフロント、というより本部内だ。
「やらかしたな、また」
【…これは、タカヒロね。かなり限局してるから。タケルなら本部ごと木っ端微塵よ】
「ということは、α―エヴァのほうは壊滅だな。まずはひとつ」
【じゃあ、一度戻るわ。そうそうミスズ、意地は張りどころを間違えないようにね】
 ユキノが年長者らしく、鮮やかに釘を刺してその幻身を消す。
「ミスズ…」
「…大丈夫よ、判ってるわ。今、自分が何も出来ないのが口惜しいのよ。ごめんねナオキ、私こそ八つ当たりしてんだわ」
「彼に、伝わるといいんだけどね」
 ユウキが、穏やかに言った。
「彼が、ひとりじゃないってことが」

***

 ベッドに付属のオーバーテーブルの上には、病室には些か不似合いな、情報端末とその周辺機器が所狭しと並べられていた。病室の主は既にギャッジアップさえせずに身体を起こしてキーボードを叩き詰めだったし、その傍らにいる医者も床頭台のテーブルを引き出しただけでは足りずにカートを二つばかり病室に引き入れてその作業を補助していた。
 セッティングしたリエが感慨深げに言ったものである。
「…お膳立てしといて何だけど…病室にあるまじき光景よね」
「感心してないで手伝え、リエ。大体、何で俺が補助サポートだ。彼女の補助が務まりそうったらお前じゃなければタカミぐらいのもんだろ。自慢じゃないが俺はこの向きは素人なんだぞ」
 マサキが渋面の上に苦虫を噛み潰して言うと、リエが涼しい顔で掌を振る。
「駄目よ、家のほうでミサヲが業煮やしてるからすぐ戻らないと。それに、私のやり方ってクセあるから、却って足引っ張っちゃうでしょ。私はあっちで連絡と転送に専念させていただくわ。
 それとも…今からでもタカミと交代する? ルート、確保できてるわよ」
 最後の一言はやや意地悪い響きを持っていた。
「…わかった、行ってくれ。ミサヲをキレさせると怖い」
「はいはーい」
 ――――そんな会話があってから既に30分ほどが経過している。その間、機械の低い唸りとタイプ音、微かな動作確認音がするだけであった。
 不意に、リツコが顔を上げた。
「ウイルスが蒔いてあるわね。それも2種類や3種類じゃない」
 先刻垣間見せた儚げな風情は欠片もなく、冷徹な技術者の顔がそこにあった。
「制作者は『うまくすれば機能停止、下手すれば足止め程度にしかならないかもしれない』とは言っていたがな」
「対人要撃システムに関しては、ほぼ無力化出来るわね。侵入の痕跡が拾えなければMAGIも異状を感知できない。でも、EVAのシステムに関しては…恐らく、修復プログラムが作動するのを少し遅らせる程度でしょう」
「…そりゃ残念。では、そちらの準備について、所要時間は?」
「…10分ね」
「了解した」
 マサキが端末の一つを呼出コールする。反応は早かった。スピーカーから、ノイズと共に勝気な娘の声が返る。
【Yes!】
「…レミ、状況は」
【ああサキ? 駄目ね、量産機のほう、ダミーシステムに修復プログラムが走ってるわ。やっぱり、エヴァ本体の手足引き千切らなきゃ駄目?】
「状況は了解してる。それについては、『開発者』の協力が得られることになった。10分後に再接続、それまで何とか凌げ。そろそろヴィレが突入を開始してるから、事態がややこしくなるぞ。喰おうが引き千切ろうが構わんが、怪我すんな」
【誰が喰うのよ、あんなキモチワルイもの! 了解、スタンバイできたらコールして】
「了解した」
 回線を切り、リツコに向き直る。
「…そういう訳だ。どうやら、既に交戦状態らしい」
「素手で、量産機と?」
 一瞬、リツコの指先が止まる。
「…ごめんなさい、続けて」
 諸々、常識で測ることを諦めたのか、立ち直りは早かった。無機的なタイプ音が再び流れ出す。
「あいつらは10分凌げと言ったら、10分間はどうにかするさ。手伝いがあったら言ってくれ。先刻聞いてたと思うが、俺は決して専門家じゃないんでたいしたことは出来ないがな」
「ありがとう。ここまで準備してもらえばあとは私だけで何とかするわ。…それよりひとつ、訊いてもいいかしら」
「俺に答えられる範囲なら」
「…人類がアダムを求めた理由は、あなたが推測した範囲を大きく逸れていないと思うわ。では、あなた方がアダムを求める理由は何? 数千年…いえ、ネフィリム計画が頓挫してからでも70年近くの時間があったのに…」
「…サードインパクトの招来」
 そう言いかけて、醒めたような視線にはぐらかせる相手でもないことを今更痛感させられ頭を掻く。
「…有り体に言えば、それほど明確な理由があるわけじゃない。
 この世界に残された、最後の同胞だからかも知れないし…あるいは、70年前の謎かけの答えが知りたかったのかも知れない。だが、『彼』に会うことができたとしても…その答えが得られる保証は何処にもないんだ。
 『ヨハン=シュミット大尉』は既に存在しない。例えその魂が同一のものであったとしても、今、ジオフロントに囚われているのは…『渚カヲル』という15歳の 少年こどもなんだからな」
 そう言いながら、マサキはイヤな確認をしてしまっていた。そうだ。彼を無事に助け出すことができたとして…それは、遙か昔に刺さったままの棘を抜き去る答えを保証しない。

 大尉、あなたは俺達に何を望んだんだ?
 何故、俺達を卵の安寧エデンから引きずり出し、 荒野ノドへ放り出したんだ?

 得られない答えなら捜さない。そう決めて、この70年ほどを生きてきた。そうして、これからも生きていこうと思っていた。そこへ、この一連の騒動である。
 正直、リリンの思惑など知ったことではなかったが、最初は本当に…保身のためでもあった。碇ユイ博士に自分が『 CODEコードKaspar Hauserカスパール=ハウザー』であることを嗅ぎつけられた以上、協力しなければヴィレをも敵に回す羽目になる。それは避けたかったというのがひとつ。
 …だが、あるいは…答えを得られる望みがあるのなら。
 その囁きに勝てなかった。
「…図々しい質問だったわね。忘れてくださる?」
 マサキの沈黙をどうとったのか、リツコはそう言って再び口を噤み、端末へ向かった。

***

 夢を見ていた。
 きっと、気の遠くなるほどに長い間を待ち、探し、彷徨った。
 でもそれは、今となってはとても遠かった。理解はするが、実感が伴わない。
 今の自分は、渚カヲルの名を与えられて狭い壁の中で育てられた、15年そこそこの記憶が形成していた。膨大な記憶は、アクセス可能なただの外部記憶…記録に過ぎなかった。
 使命…宿命…運命…もっともらしい表題を付けられた記憶の枷。そう、すべて振り払ってしまいたかったのだ。
 君がいてくれるなら。
 透明度ゼロの重たい水の中でもがくような圧迫感。そこから自由になろうとして手を伸ばす。

 ―――――空へ…!

 方法はあるのだ。いまはまだ手が届かないだけで。
 ここから自由になりたい。そして、君の許に帰る。
 そのためなら、どんな手段も辞さない。

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 タラップというものは、その機能上、本来それほど見つけづらいところに設置をされることはないはずである。
 ただ何分にも薄暗いところで、しかも手持ちのライトで床を照らしながらというのは、捜し物をするには余り効率的な環境と言えなかった。それでも、警告の表示に縁取られたC7の数字が、程なく見つかった。
 レイが見つけ、イサナがフックを起こして扉を引き開ける。基本的には非常口の類だから、扉は決して軽くはなかっただろうが、イサナは然程力む様子も見せなかった。
 開いた扉を固定すると、下から微かに空気の流れが感じられた。その流れに乗って流れてきた臭気に、レイが思わず眉を寄せる。
「…何の、匂い…?」
「君は憶えていないだろうな。彼等がLCLと呼んでいるものさ。我々を構成する物質の原初の姿、それと…リンゲル液に組成が似ている。エヴァの制御系との接続にも使用されているらしいな」
 多分、イサナなりになるべく理解りやすい説明をしようと言葉を択んでいるのだろうが、表情が余り動かないのでいまひとつ堅苦しさが抜けきらない。
「血の匂いに似ているんだ…まあ、あまりいい匂いとは言い難いだろうね」
 全く気配がしなかったので、不意に掛けられた声にレイは飛び上がるほど驚いた。
「…終わったか」
「はい。…待たせてすみませんでした」
 イサナの簡潔な問いに、ややぎごちなさの残る微笑でそう応えてから、タカミは開いたタラップの入口を見て言った。
「行きましょう。僕が先に降ります。イサナ、殿しんがりをお願いできますか」
「わかった」
 タラップのついている通路―というか、有り体に言えばただの縦坑たてあな―もまた暗い。遙か下には、針の先のような灯は見えるが、色調からみてあれも非常灯の類だろう。タカミはライトをポケットに滑り込ませると、ひと一人がようやく入れる程度の細い通路に足をかけた。肩が隠れる程まで降りてから、気がついたように顔を上げる。
「そうそう、僕がいいっていうまで、君は降りてきちゃ駄目だよ?」
 降りた先の安全が確保できるまで待て、という意味だと理解して、レイは頷いた。イサナが油断無く周囲に目を配りながら声をかける。
「気をつけろ。警備システムのたぐいならお前でどうにでもするだろうが、あの男がいたら…」
「了解してます。僕も分は心得てるつもりですよ。その場合は全力で退避しますから、対処よろしく」
 気楽にひらひらと手を振って薄闇に溶け込むシルエットを見ながら、レイはなんとなく心配になって坑の傍らに膝をついた。
「カヲルが…この先に居るんですよね? 他に、誰かが…」
 『あの男』と言った時の、イサナの声のなかに含まれていた感情。嫌悪感などという生易しいものではない。高階邸の面々の中でそれほど感情を表に出すことのないイサナでさえこれなら、服を貸してくれたミスズやナオキたちならどう言っただろうと思うと、言いかけてその答えを得てしまった。
「碇君の、お父さん…」
 イサナは頷きでそれに応えた。
「これだけ事態が死海文書の予言から離れてしまっても、まだ自説をげないというなら…もはや頑迷というより、付ける薬のないたぐいとしか言い様がない」
 至極冷静に、容赦の無い台詞を口にする。…そして。
「…君は、あの男にそれほど嫌悪感を持っていないな?」
 言い当てられた感じがして、レイは思わず俯いた。
「よく…わからないんです。所長って。怖いひとだなっていうくらいで。きっと、カヲルがいつも私がイヤな思いしなくて済むように気を遣っていてくれた所為だと思うけど。今でも私、本当はよく分かっていないんだと思います。
 でも、あの人の所為でカヲルと会えなくなるなら…私は、あの人を憎みます」
 ついた膝の上で握りしめた手が、震えていた。
「…君は、『綾波レイ』になる前の記憶は持っていないと聞いている」
「知識としては、一応。でも、よく分からないんです。ゼーレのことも、死海文書のことも。すべてが私の望みだったって言われても、ごめんなさい、無かったことにしてくださいって言いたいくらい」
 笑おうとして、レイは失敗した。
「世界は広いんだし、仲良くとは言わないけど、きっと皆それぞれ生きてゆける。どちらかが選ばればならないなんて、誰が決めたの?…そんな莫迦な話って、ない」
 ぽたぽたと、落ちた涙が握りしめた手の甲に当たって砕ける。
「…私、カヲルと一緒に居られたら、それでいい…!!」
 その時、頭に軽く載せられた手にはっとする。
「悪かった。興奮させるつもりはなかったんだが」
 見上げると、イサナが途方に暮れたような顔でこちらを覗き込んでいた。
「わっ、私こそ、ご、ごめんなさい」
 慌てて目の縁を拭う。その時、タカミの慌てた声というより思念が飛び込んできた。
【イサナ、手伝って!】
「君は此処に」
 イサナはほとんど一挙動で坑へ身を投じた。ロープもなしに懸垂下降ラッベリングしているようなスピードで、あっという間に姿が見えなくなる。
 薄闇の坑からはLCLの匂いだというあの血臭を含んだ気流が上がってくるほか、何も窺い知ることができない。
 強烈な不安に駆られて坑の奥を覗き込んでいると、血臭が強くなった。ものが壊れる音や、銃声のようなものは聞こえないが、水の流れる音がした。そして、水の跳ねる音。

 ―――僕がいいっていうまで、君は降りてきちゃ駄目だよ?
 ―――君は此処に。

 忘れたわけではない。でも、このまま蹲っていても、不安に押し潰されてしまいそうだった。
 でも、これでは、あの部屋マンションに逼塞していたのと何も変わらない。
 意を決して、レイはタラップに足を掛けた。
 降りていくと、針の先のように見えた非常灯がぼんやりとその範囲を広げてきた。あともう少し、と思ったとき、何か…かぁんという硬いものが床に落ちる音…そして跳ねる水音がそれに続く。
「…カヲル…カヲル!!」
 最後の数段は、もう耐えきれずに手を離した。
 耳許で風を切る音。思わず目を閉じる。そして、足下の水音。
 床一面に溢れた橙赤色の水に足を取られ、レイは膝をついた。むせかえるような血臭に一瞬眩暈を感じるが、歯を食いしばって目を開けると構わず頭を巡らせた。
 最初に目に入ったのは、溢れる橙赤色の水の中に投げ出された禍々しい紅の槍。先刻の金属音はこれだろう。その槍を、イサナが拾うのが見えた。
 その部屋は、存外明るかった。配管の類が光源を遮っていたためにタラップからはひどく頼りない灯と見えたのだ。しかし、降り立ってみると天井数カ所に取り付けられた照明は部屋が見渡せる程度の光量を保っていた。
「…待つように言ったんだが」
 イサナの言葉は、レイに対する咎めというよりタカミに対する言い訳であった。
 部屋のほぼ中央。空になった水槽には、先刻までおそらくLCLが満たされていたのだろう。その前に、タカミがいた。膝をついて、誰かを抱えている。
 力なく垂らされた腕はいつにもまして皓い。蒼白ともいえた。…もともとあまり血色が良い訳でもないが、尋常でないのは一瞬で見て取れた。
 振り返ったタカミの顔色がレイの不安を裏打ちする。
 銀色の髪は重く濡れ、先刻までタカミが羽織っていたジャケットをを掛けられてはいたが、そのジャケットもすっかり湿っている。
「―――カヲル!!」
 床一面に広がった液体の所為で滑りそうになりながら、駆け寄るレイの叫びは、掠れた。

――――――第拾話 了――――――