intermezzo.Ⅱ ただひとつの魂 Side B


Senryu-tei Syunsyo’s Novel Room(Novel-Ⅲ)
Evangelion SS「und der Cherub steht vor Gott!」


「君を我々に差し出したのは他でもない、碇君だよ」

intermezzo.Ⅱ
ただひとつの魂 Side B

 ――――――――――――――レイの代わり・・・・・・・・・・・・私が・・・・・

***

 くらい海の中を漂っている自分に気づく――――――――。
 「自分」とは何だろう?
 よく・・・わからない。
 どちらが上で、どちらが下かも判らない、重力すらも無縁な空間。
 ただ、穏やかな闇だけがそこにある。ここは何処?



 リビングテーブルと、その前に座っている女の人。一輪挿しに、枯れた花。暗い部屋。そこにはもう、他にだれもいないのかい?
 僕はあなたを知ってる。
 それは昔読んだ悲しい童話の、マッチの明かりに浮かんだ一瞬の幻影の如く。あっという間にかき消えてしまった。



 何処までも続く青い空。群れをなしてそれを横切る鳥達。
 見上げたそのひとの首には、重い双眼鏡。手にはクリップボード。
 それはひどく懐かしい光景。・・・最後の光景。
 覚えているのは、フィールドワークについて行って見つけた、綺麗な赤い球。



 連日、白衣の人間に囲まれて、質問攻めの毎日。駄目だよ、僕は何も覚えていない。



 この人知ってる。葛城ミサトさん。僕と同じように、あの南極で生き残ったひと。
 ・・・・・“僕”と同じように? 違う。僕はあそこで一度・・・・
 いや、わからない。



 廊下を数歩踏み出して、立ち止まる。
 自分の部屋の前に、客がいた。
 中学校の制服。それとはあまりにも不釣り合いな、銀の髪。そして紅瞳。
 彼は、凭れていたフェンスから背を離してこちらを向いた。
「Dr.榊 タカミ・カーライル?」



 泡のように現れ、そして消えてゆく光景。その間に、少しずつはっきりしてくる。
 かつて、自分が何者であったのか。
 だが今の自分は何者なのか?
 また現れる。・・・・第三新東京市・・・MBCI本社ビルに隣接した、タンパク壁プラント群。白いタイルを染める紅の泥寧。
 目の前に立つ人物。・・・そう、あの運命の子。
『・・・・あなたの言いたいことはわかる。でも、どうしてそんな風に思うのか、わからない』
 淡々とした言葉と裏腹に、いたましいほどの戸惑いをのせた紅瞳。・・・・・・そうだね、折角会いに来てくれたのに、ろくなことがなかったね。
 会いに・・・そう、僕に会いに来てくれたんだっけ。

 渚・・・・カヲル君?



「ロジック・モードを変更。シンクロコードを15秒単位にして!」
 どうして? あなたの声が、ひどくぼんやりして聞こえる。
「相手が常に進化しつづけるのなら、勝算はあります・・・・・・!」
 そうか・・・・・そうだね。あなたにとって、僕は敵だ。
 葛城さんみたいに憎しみをもってるわけじゃないけど、僕らを殲滅することが・・・・あなたが愛した人の望みだから。
 こんなかたちでしか・・・向き合うことができなかったことが、今は少しだけ悔しい。

 僕は、あなたに大事なことを言い忘れてた――――――――――

***
Wen der grosse Wurf gelungen, eines Freundes Freund zu sein,

 

wer ein holdes Weib errungen, mische seinen Jubel ein!

Ja, wer auch nur eine Seele sein nennt auf dem Erdenrund!

Und wer’s nie gekonnt, der stehle weinend sich aus diesem Bund.

大いなる天の賜物を受け、
ひとりの友の友となり得し者よ、
優しい妻を勝ち得た者は
和して歓喜の声をあげよ。
そうだ、たとえただひとつの魂でも
地上で友と呼べるものをもつことができる者は!
しかし、それができなかった者は
涙しつつ、この集いからひそかに立ち去るがよい。
***

 LCL槽の前で、リツコは半ば放心したように立ち尽くしていた。
 彼女らしくもなく、その襟元はわずかに乱れている。
「・・・また会ったわね、天使さん」
 ふと笑み、そう話しかける。しかし、硝子の向こうにいる者が、閉じた瞼を上げることはなかった。
「・・・・笑っているのでしょ?・・・・私達が莫迦なことばかり繰り返しているのを。そして時が来たら、審判を下しに舞い降りるのね。・・・いいえ、破滅を導きに」
 ―――――周囲は器械の唸りと、時おりLCL槽の中ではじける気泡の音のみ。

***

「私を殺したいならそうして。いいえ、そうしてくれると嬉しい・・・・」
「・・・・それこそ、莫迦よ・・・・・・あなたは・・・・・・・・・・」

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