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人形【Doll】:                     
人形はしばしば特定の人物の魂のイメージであり、     
交感魔術や妖術では、人形を通じてその人物に害を与える事がある。

J.C.クーパーの「世界シンボル辞典」は大変面白い。

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Senryu-tei Syunsyo’s Novel Room(Novel-Ⅲ)
Evangelion SS「Ghost stories on a summer night」

第参話「路傍の首」

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 渚カヲルが消息を絶ってから、既に数週間が過ぎていた。
 勿論警察にも通報したし、仲間内でも再三捜索を行ったが、遺留品ひとつ出なかった。
 ついに警察も捜索を打ち切ったが、諦めきれず、皆で彼が消息を絶ったあたりを縦走する山間の県道をもう一度探してみることになった。
 比較的良く整備されたまっすぐな道だが、何分にも山の中を通っているので起伏が激しい。そして随所に切り通しがある。ただ、開通してもう10年以上が経っているから、土が剥き出しになっているわけではなく、何処もむせるような緑に覆われていた。
 車中の皆は言葉少なであった。流石に、楽観できるような時間の経過ではなくなっていたのだ。
「・・・・・ちょ、ちょっと車止めて!!」
 峠を通りすぎようとした時、不意に叫んだのは助手席のアスカである。運転席のシンジが反射的にブレーキを力一杯踏み込んでしまい、ハコ乗り状態の軽自動車はあやうくスピンするところだった。シートベルトをしていなかった後部座席のトウジとケンスケがどうなったかは言うまでもない。
「莫迦シンジ、アタシを殺す気!?」
「あ、脳味噌偏るかと思うたわ」
「は、鼻打った・・・」
 口ぐちに非難されて縮こまるシンジ。
「と、莫迦やってる場合じゃなかったわ」
 アスカがドアを開け放って、今降ったばかりの峠道を駈け上げる。以下三名はそれに倣った。シンジはとりあえず路肩に車を寄せて。
「・・・・・・なんなの、これ・・・」
 息を切らせてそこまで駆け上ったアスカが発した第一声がそれであった。
 追いついた三人も、それを認めるなり絶句した。
 そこは、道のあちら側を高い土手、こちら側を雑木林に挟まれて昼間でも薄暗かった。その何処か陰惨な暗がりの中に、それは立てられていたのである。
 錆びきった鉄筋。1.5m弱であろうか。枯葉で覆われた地面に無造作に突き立てられている。問題は、その上に載せられているモノであった。
 首。・・・・・マネキンの。
 随分長いこと路傍にうち捨てられていたかのように、ひどく汚れ傷ついていた。色が褪せてひどく青白く見えたし、髪の毛ももとは何らかの彩色がなされていたのかもしれないが、すっかり落ちてしまって銀色に近い。そして伏せがちな両眼は鳶色が褪せたか赤褐色に見えたし、唇の赤は擦れて頬を汚していた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
 沈黙の示すところは、皆同じであった。
「・・・・案山子にしちゃ、良くないセンスよね」
 ようやくアスカが口を開く。まとわりつく薄気味悪さを振り払おうとするように、ことさらに語気をあげて。
「センス悪いなんてもんやない。悪趣味や。・・・・っちゅーより、ちょっと悪質やで」
「こ、この前探しに来た時は、こんなものなかったよね?」
「こんな、ほっといたら事故の原因になりかねないようなシロモノ、警察が見たらほっとくわけないだろ。来たのが夜中じゃなくてよかったよ。心臓に悪いぜ」
 錆びた鉄筋の、輪状の紋様が背骨を思わせて無気味だった。マネキン独特の視線の焦点を追いにくいまなざしは、まっすぐ道行く車を監視するかのように向いている。
「誰がやったか知らないけど、悪趣味なイタズラではあるわ。つまんないことで車止めちゃったわね、戻りましょう」
 そう言ってアスカが踵を返す。だがその時、トウジが頓狂な声を上げた。
「待て、あれバイオリンケースと違うか」
「え、何だって?」
 トウジが下草の茂みに分け入り、黒い塊を引っ張り出す。それは紛れもなくバイオリンケースであった。
「間違いない。このイニシアルの入れ方、見覚えがあるよ。カヲル君のだ」
「なんで今ごろ・・・ここは警察だって捜したはずなのに・・・」
「もっと探してみよう。なにか出てくるかも」
「じゃ、僕は車をこっちへ寄せとくよ。あそこに置いてたら追突されても文句言えないし」
「そしたらシンジはそのままここで待機。各自何か見つかったらすぐここへ戻って、シンジはそれを皆の携帯に連絡。いい?」
 アスカの提案に異論のある者はなかった。・・・・シンジを除いては。
「ぼ、僕がここに残るの!?ひとりで」
「・・・・・あらシンジ、怖いの?」
「こ、怖くなんかないよ!」
「あっそう。じゃよろしくね」
 気がつけば残るしかないシンジだった。仕方なく車を移動させると車道から完全に退避させ、車の中で携帯電話を握り締める。
 もともと曇りがちな天気だったが、日が傾くにつれどんどん暗くなってきた。
 いつの間にか風も出ている。
 どのくらい待っただろうか。誰一人として帰ってこないので、たまりかねたシンジはアスカの番号を呼び出した。
【・・・なにビクついてんのよ。あれから15分も経ってないじゃない!】
 叱り飛ばされた上に一方的に切られ、シンジは首を竦める。
 そのとき、車体になにか重いものがぶつかった。思わずまた身を縮めたが、再三莫迦にされたことを思い出し、意を決して車外へ出た。
 出た途端、先刻のマネキンと顔を合わせてしまって硬直する。だが、頭を振って目をそらし、車体の周りを調べた。・・・何もない。
 車体の周りを一巡りすると、またその奇怪なオブジェの前に出てしまう。だが、あまりびくびくするのも恰好良くないと思い、マネキンだ、人形なんだと自分に言い聞かせてそれを見据えた。
「・・・・・本当に、タチの悪いイタズラだよ」
 そのときまた、ぶつかる音がした。今度は何かが落ちたようなドサリという音まで。
 ハッとして振り向く。落ちていたのは、手だった。無論マネキンの。
「こんなもの、一体何処から・・・・」
 周囲を見渡しても、こんなものが落ちてきそうな場所があるわけもなかった。木の枝先にでも括り付けてあったならともかく。
「何なんだ、一体・・・・」
 首と同じように、その手首もひどく汚れていた。
 その薄気味悪さに、シンジはそれを片付けてしまうことにした。・・・下草の茂みの中へ。
 指で摘むようにしてその手首を持ち上げると反動をつけて茂みへ投げこむ。だが何かに当たったように硬い音がして、手首はシンジの手許に戻ってきてしまった。
 とっさに受け止めてしまい、思わず取り落とす。
「・・・・・木の幹にでもあたったんだよ。そうだよ」
 自分に言い聞かせるようにそう呟きながら、シンジは再びその気味の悪い手首を摘み上げると、今度は少し方向を変えて投げこもうとした。
 ・・・・・が。
 その一瞬、また先刻の首が視界に入る。その赤褐色の双眸が、まっすぐにシンジを見ていた。
「うわっ!?」
 最初は確か、少し伏せがちであった筈・・・・!
 手許が狂い、マネキンの手首は意図した方向とはまったく違うほうへ飛んでしまう。
 ・・・・・・・そして、硬い音。
 シンジは悲鳴を上げる事はできなかった。草むらの中から跳ね返ってきた手首が、シンジの喉笛を掴んで締め上げたのだ。
 無我夢中で引き剥がそうとするが、冷たい手首はびくともしない。
 そればかりか、後ろから何者かが襟首を引っ張り、ただでさえ息が止まりそうなシンジを中空に吊り上げようとしていた。
 視界が赤くなり、暗くなってゆく中で、シンジはようやく振りかえった。
 シンジの襟を、宙に浮いたもう片方の手首が握り締めていた。

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「おい、脈があるで。息もしとる!」
「ちょっと、しっかりなさいよ!」
「そ、忽流、怪我人にそれはちょっとマズイんじゃ・・・」
 首が抜けそうな勢いでゆすぶられたカヲルが、流石に目を覚ます。
「・・・・ここ、は・・・?」
 声が完全に嗄れていた。
 衣服は泥で汚れ、山中行を物語るようにあちこちがかぎ裂きになっていた。身体も似たようなものだが、ともかく命に関わりそうな外傷はない。
「凄いな、奇跡だよ。あれから何週間って経ってるのに」
「とにかく病院ね。脱水おこしてるわ」
 三人はシンジが待機しているはずの場所まで戻ったが、そこには車しかなかった。
「もぉあの莫迦!残っとけって言ったのに!」
 携帯での呼び出しにも応じない。だが、怪我はともかく衰弱したカヲルをそのままにしておくわけにも行かず、呼び出しを続けながら車を出すことにした。
 そのどさくさで、あるもの・・・・がなくなっている事実に、誰一人気づかなかった。

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「いや、ひどい目にあったよ。何処をどう歩いてたか全く記憶になくてね。なんだか夢を見てたみたいだよ。
 そう、シンジ君に会ったんだ。多分夢の中だと思うけどね。いくら呼んでも気づいてくれなくて、それどころか呼びとめようとして出した手をふりはらわれちゃってさ。悲しかったねえ。その後? ううん、何も憶えてないなぁ。アスカくんに凄い勢いで揺さぶられるまでね。
 ・・・・ところで、シンジ君は?」

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「ちょっと加持、車止めて!」
 助手席のミサトが頓狂な声をあげたので、加持は慌ててブレーキを踏んだ。
「戻して。先刻、変なものが道端に立ててあったのよ」
「ゴミ投棄禁止の立て札じゃないのか?」
「そんなんじゃないわよ」
 車の通りが少ないのをいいことに、思いきりバックさせる。車を降りて、ミサトが声を跳ね上げた。
「やだ気持ち悪い、これマネキンの首じゃない!」

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今宵はこれべく候

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第四話に続く・・・かどうかは、謎

 蛇足。
 お話的には実にパターンなのですが、「道端に立てられたマネキンの首」は実在します。
 しかも、通る度に微妙に顔の向きが変わっている(滝汗)(<Aug.20,1999にアップロード)
 誰が何のつもりでやったんでしょう。確かに、山の中で人目につきにくいのをいい事に時々いろんなモノが捨ててある道ですけど(<何年か前に、もう少し東のほうでバラバラ死体の一部が見つかった事もあるらしい)。柳が見たのは首だけで、他のパーツは見当たらないようでした。(<ちなみに柳は車を降りてしげしげと見入ったりはしてません。念の為)
 構想一日、書くのに二日。最短記録だなぁ・・・