篝火は消えない

巣立ちの唄

巣立ちの唄

五日間戦役勃発…それはひとつの時代の終わりと始まり。 絡み、あるいは離れてゆくそれぞれの軌跡。
風の如くに

風の如くに Ⅷ

王太后レリアは、叛乱発覚直後にその身柄を抑えられたものの、その処遇は王城内での軟禁にとどまっていた。 国王の生母という立場に一定の配慮がなされたということもあったが、なにより王太后自身が全く抵抗も逃亡の意志も示さなかったのである。 王城内、...
篝火は消えない

風の如くに Ⅶ

この人事を天地が裏返りそうな驚愕で受け止めたのは、他ならぬマキであった。「どうしてっ!?」 サーティスからこれを伝え聞き、例によって連絡のためにセルア館を訪れたセレスを掴まえての開口一番がこれである。 馬を下りるなり両肩を掴んで詰め寄られた...
篝火は消えない

風の如くに Ⅵ

宮廷の、この独特の雰囲気が嫌いだ。 朝議の間。緊急に呼集された廷臣が呼吸を詰めて居並ぶ中、奏者壇まで進み出たサーティスは目の前の年若い国王…兄カスファーの息子を、礼を失しない範囲で観察した。 どちらかと言えば造作は母親似かもしれない。だが、...
篝火は消えない

風の如くに Ⅴ

館は、戦場のような有様になっていた。 血溜まりの中に蹲るリオライ。会場警護のために室内にいた第一隊は、全て叛乱軍の党与であり、ディルがリオライを刺したのを合図として一斉に襲いかかってきたのだ。 エルウの挙動から変事を察したリオライの側近達が...
篝火は消えない

風の如くに Ⅳ

リオライは宰相位についてより、ヴォリスの本邸に居を構えている。 多忙さを考えれば、いっそ王城で起居してもよい程だったが、気が休まらないので一応ヴォリスの本邸へ戻ることにしていた。それほど長い時間が掛かる訳ではないが、その移動の時間に考えたい...
篝火は消えない

風の如くに Ⅲ

床、壁、天井、浴槽に至るまで精緻な切嵌細工モザイクの陶板タイルを敷き詰めたその浴室は、ツァーリの様式とは異なるものだった。 砂漠の中のオアシス、シルメナの国都メール・シルミナは潤沢な水源に恵まれ、王城や神殿はそこから得られる豊富な水流と、そ...
篝火は消えない

風の如くに Ⅱ

その館の主は、客人の帰ったあともテラスに面した陽当たりの良い居間の椅子に身を預けたまま、悠然と酒杯を傾けていた。 夕陽を受けて橙赤色に輝いていた髪は、黄昏の薄闇の中で本来の金褐色を呈していた。やや暗めの色彩でありながら、緩く波打つその髪は光...
篝火は消えない

風の如くに Ⅰ

大陸暦900年、シアルナの下月。 講和締結後1年、その間リーンで内紛があり、シェノレスとシルメナの間で小さな島を巡って紛争があったりと多事多端であったが、ツァーリは概ね平穏であった。 前年末ミティア=ヴォリスの入内が正式に公布されたが、直後...
篝火は消えない

風の如くに

シェノレスとの講和締結後1年。ツァーリはようやく落ち着き始めた。 国の再建に心血を注ぐリオライだが、王都は味方ばかりではなかった。「豪奢な檻の中で獅子が緩々と弱っていく」かのような有様を、側近たちやエルンストは憂う。そしてまた、叛乱の火種を...