西方シリーズ

西方妖夢譚

夢のあとさき

サーティスとエルンストが龍禅で再会したしばらく後のお話です。まだ愁柳は一服盛られて目を患う前でして、一寸だけ雰囲気が明るかったりします。(しかし元来は結構ライトな御仁なのです。怒らせると怖いですが)一応は「さくっと読める番外編」を目標に書い...
西方妖夢譚

西方妖夢譚Ⅲ

狼が地を蹴る。サーティスは寸前で抜き、狼の右の前足から左肩へまっすぐに斬り上げた。刹那の間隙。直後、白い毛皮が朱に染まる。「…お前か、シルヴィア…!」 先刻、雪の上に打ち倒されたとき、脳裏に閃いた映像。吹雪の雪稜に、佇立する女。髪も、服も、...
西方妖夢譚

西方妖夢譚Ⅱ

『サーティス…貴方、寂しいと思って事があって?』『あるよ。当たり前だろう?私だって人間だ』『そうね、ひとだものね…。ねえ、動物は寂しいなんて思うことはあるのかしら?』 無邪気な問いに、サーティスは笑った。『さあね…獣になったことがないから、...
西方妖夢譚

西方妖夢譚Ⅰ

「サーティス!」 避け損ねたサーティスは積もった雪に背中から叩きつけられた。 さすがに息が停まる。白い牙が左肩の古傷に食い込んで、サーティスは僅かに呻いた。しかしエルンストが投げた短槍が獣の背を掠め、白い狼は肩を放す。すかさずその身体を蹴り...
西方シリーズ

西方妖夢譚

サーティスとエルンストが龍禅で再会したしばらく後のお話。「さくっと読める番外編」(嘘)
西方奇譚

西方余談

実は、この数年後に竜禅の都・天河で二人が再会するくだりの小咄もあったりするのですが、あんまりにもしょーもないので削除しました。まあ、「綺譚」当時、サーティス16歳、エルンスト18歳だったというまるで詐欺のような年齢が暴露されるだけのオチです...
西方シリーズ

西方奇譚Ⅴ

翌朝…というより、次にエルンストが目覚めたとき、起きて出てみるとあの最初の部屋から人の気配がした。 四角い窓は一面黒く塗り潰され、あの文字が何列も現れては消える。当然、操作卓の前の椅子にはサーティスが座っていた。「エルンスト」 椅子から立ち...
西方シリーズ

西方奇譚Ⅳ

此処よりはるか東方に、ツァーリという国が、あった。 百数十年前の「大侵攻」により、一躍その勢力圏を拡げた国である。王家と、「大侵攻」に大功のあった王弟にその始祖を持つヴォリス宰相家が実権を握っており、両家は何代にもわたり婚姻によって深い血の...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅲ

確か母が病死したときも、こんなには悲しくはなかったように思う。 目の前で消えようとしている命。絶対に失いたくないものであるのに、それをここに留める力は、自分にはなかった。 無力だとわかっているから、声が涙声になる。終いには何も言えなくなって...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅱ

サーティスと呼ばれたその少年が客間で待たされた時間は、そう長いものではなかった。「お呼びだてして、申し訳ありませんでした」 扉が開き、腰を覆うほどの艶やかな黒髪の、三十ばかりの女が姿を現した。「イェンツォの“老”・サーティス様…初めてお目に...