西方シリーズ

篝火は消えない

西方奇譚Ⅰ

雨が、降っている。 彼は肩と脇腹の拍動痛に耐えながら息をひそめ、雨音に混じる荒々しい足音に耳をそばだてていた。肩の傷はともかくとして、脇腹の傷からは押さえている手を真っ赤に染める程の出血があった。 外を数人の足音が通りすぎるのを聞き、深い息...
西方シリーズ

西方奇譚

西方の小都市、イェンツォ。 ルフトシャンツェのエルンストは傷を負って「組織」の後方担当である「老」に保護を求めた。だが、会ってみると頼りの「老」は年端もいかない少年。 「追われてるんだぞ、俺は」 エルンストは連絡だけを依頼して立ち去ろうとするが。
篝火は消えない

西方夜話・・・その後

ここまでおつきあい下さった方、本当にありがとうございました。「西方夜話」はこれにて完結。まったく、「お姫様と王子様のらぶすとぉりぃ」路線を完全に踏み倒した格好ですが、珍しいことにハッピーエンド(本当かい?) 履歴を見てて我ながら顎が抜けそう...
篝火は消えない

西方夜話Ⅹ

「エルンストは、もうツァーリに慣れた頃でしょうか」 はるか東を眺めやりながら、愁柳が呟くように言った。「あれも畢竟、順応性の塊だから…今頃結構いい役に就いてるかも知れないな。悪い女に引っ掛かって身を持ち崩しているという可能性もなくはないが…...
篝火は消えない

西方夜話Ⅸ

数年前のあの夜、エルンストはある国の司令官から龍禅軍総司令官の暗殺を請け負って、龍禅軍の司令部に潜り込んだのだ。 ────陣屋の警備は、エルンストにとっては余りにも手薄だった。総司令官の陣屋の側まで来ると、エルンストは陣屋の中の気配を探り、...
篝火は消えない

西方夜話Ⅷ

「ナルフィ、あなたは一刻も早くこの国を離れてください」 愁柳は、穏やかにそう言った。一瞬意味を飲みこみそこねたナルフィは、思わず愁柳を見つめ返す。「…戦が、始まるんですよ。お姫様」 横で剣の手入れをしながら、エルンストが補足した。「…戦が…...
篝火は消えない

西方夜話Ⅶ

「…これほど弱いとは思わなかったな…」 サーティスは酒杯を置くと潰れている連れの二人を見遣って吐息した。…だが、これは比較対象が悪いのである。ラースはともかく、エルンストは標準的視点からみれば十分酒豪であった。ただ単に、サーティスの底が抜け...
篝火は消えない

西方夜話Ⅵ

サーティスは結局樹園を出たあたりで追いつき、街はずれの彼の家へ案内した。森を抜けたところで、全くの一軒家である。古ぼけた家であったが、造りはしっかりしているようであった。「…ああ、その辺のものに触られんように。結構物騒なものも混じっています...
篝火は消えない

西方夜話Ⅴ

「殿下!」 妙な不快感―俗に言う、嫌な予感―に、エルンストはやや乱暴に綺翔殿の扉を開けた。「………!」 荒れた室内に、エルンストは血の気が引くのを感じた。 今日に限ってやたら変なのにからまれた理由が分かった。人影はない。ただ、盛大な血の池が...
篝火は消えない

西方夜話Ⅳ

一方、ナルフィもまた、閉じ籠もり気味な毎日を過ごしていた。ラースはこれを案じたが、理由もわからないではどうしようもない。何とはなしに裏手の樹園に出て、吐息しながら漫然と緑を眼に映していた。 ノーアからの知らせによれば、どうやらサマン撃退には...