ひとつだけ願う――――
愛する人よ わすれないで
千年の果てで もう一度結ばれよう
EVER AFTER
星降る森
静寂の中、木々の影に縁取られた紺青の夜空から、圧倒的な数の星が落ちてくる。
「おい、生きてるか」
仰向けに身を横たえ、その呼吸さえ圧する光景を眺めながら、すぐ傍にいる筈の友人に声をかける。脚を射貫かれ、歩けないから置いて行けというのを無理矢理担ぐようにして引き摺ってきたのだから、声も出ない程弱っていても不思議はない。
起き上がることもできないから、重たい腕をただ必死で伸ばす。だが、触れたのは冷たい感触だけだった。何に触れたのかさえ判らないのは、指先の感覚が既に曖昧になっているからだ。
「返事をしろ…!」
声を出すために吸い込んだ息が、折れた肋骨を揺さぶって激痛を引き起こし、語尾はみっともなく掠れた。
…返事はない。
その代わりに、下草と枯葉を踏み分ける音が近づくのが聞こえた。複数だ。使える武器は既に手許にない。討手だとしたらもう手段がなかった。
だが、名前を呼ぶ声が聞こえた。それは確かに自分の名前であるはずなのに、微妙な違和感を纏っていたが…今はそんなことに頓着できない。
莫迦、戻ってきたのか。
闇と静寂の中で、降る星の光だけが明瞭。…それが不意に、人影で遮られる。
それが誰かは、すぐに判った。もう大丈夫、みんな逃げ延びた。ようやくのことでそう言ったのに、困ったことに先方は全く聞いていない。
おさまりの悪い…しかし繊細な銀の髪は、星の光をはねてその所有者の震えを伝えていた。辰砂の朱色の双眼は一杯に見開かれ、子供のような泣き顔で必死に自分を呼ぶ。
…子供のような。いや、年齢相応というべきなんだろう。幾ら年を経ても変わらぬ少年の姿。時に老獪な賢者のように振る舞うくせに、その本質はきっとこの姿のとおりなのだ。それが何か可笑しくて、思わず微笑った。
俺はいい。そいつをみてやってくれ。そう言おうとした筈だが、声になったかどうか。
少年が後ろを振り返った。ああ、そういえば足音は複数だった。同行者の人影の方へ目をやったが、頭をもたげることができなかったので視界には入ってこない。誰だ、酔狂にも戻ってきたのは。
ただ、細く低い嗚咽だけが幽かに耳を打つ。…誰のものか、すぐにわかった。ああ、間に合わなかったか。
済まない、また彼女を泣かせた。…次に逢ったときにあいつにどやされるな、これは。
嘆息と一緒に鉄臭のする生温い液体が喉奥にせり上がってきて、呑み込みきれずに零れた。その臭気に咽せて咳込み、派手に襟許が濡れる。ひどく心地悪い。
…少年はまだ泣いている。温い涙が頬を滑り落ち、ぱたぱたと零れて降りかかる。
歎くことはないだろう。また逢えると言ったのはおまえだ。縁が皆を導くだろうと。何度でも生まれ、何度でも出逢うと。
それがお前が望んだことであれば、何を歎くことがある。何、生きている上は死なねばならぬ。何者であろうと…それは動かしがたい真実じゃないか?
ものは考えようだ。おまえの傍にいれば、どれだけ離されようと…皆また逢える。だから俺たちはお前を捜そう。…捜し続けよう。
そうしてお前に逢うことが出来れば、皆にもきっと逢える。
どれだけ姿形が変わろうと…魂が、互いの徴を捜し当てるから。
***