フッ素塗布してもらうのこと

 0301運動なるものがあるそうだ。8020運動(80歳までに20本の歯を残そう)なら聞き覚えがある、という方も多かろう。事実柳もそうだった。0301運動とは、3歳までの虫歯を1本以下に、という運動なのだそうだ。柳が生まれた頃は歯科衛生もへったくれもなく、歯磨きの習慣もそこそこにカルピスばかり飲み、小学校に上がるころには乳歯をぼろぼろにしたものだが、昨今は少子高齢化の余波かえらくご丁寧なことである。(しかしネットで検索をかけても引っかからなかった。よほどローカルな運動なのだろうか?)
 それはさておき。保健センターから件の0301運動の一環として、1歳6ヶ月児の歯科検診とフッ素塗布を行います、というご案内を頂いた。柳としてもみっちゃんの歯磨きが日頃いい加減なのには一抹の不安を覚えていたので、2ヶ月前から休みを確保して挑んだ次第である。
 しかし歯科検診はともかく、フッ素塗布には一抹どころかインク壷ごとひっくり返したぐらいの不安があった。何故かとは愚問である。・・・フッ素塗布というと小学生の頃、フッ素をしみこませたU字型のスポンジのようなものを、襲い来る不味さと戦いつつ数分間噛み締めた記憶はどなたにもあるだろう。小学生ともなればある程度我慢もきくが、1歳6ヶ月児の場合どうなるかは自明である。

 だが、実際にはそれよりもまだ高い山が控えていた。
 同じぐらいの月齢の子供たちが沢山いる、という状況にびっくりしつつも新鮮な感動を覚えたらしいみっちゃんは、力の限りはしゃぎまくったのである。待合の広場を所狭しと駆け回り、見ず知らずのお姉さんに懐くやら、他の子供に抱きつくやら、とにかくやりたい放題。挙句は男の子に体当たりをかまして泣かせてしまう始末である。当人まったく悪気はなく、おそらくいつも家族に抱きつく感覚なのだろうが、みっちゃんの体格がよすぎるので大抵の子供は負けてしまう。
 無論こかされた方はびっくりして泣き出すのだが、みっちゃんはみっちゃんでこいつは何を泣いてるんだ?というふうに泣き続ける子供を目を真ん丸にして見つめていたのが笑えた。…とはいえ他所様のご子息を転ばせた格好だから、暢気に笑ってもいられない。柳は平身低頭しつつみっちゃんを担いでその場を離れた。そんな具合で何をやらかすやら分からないため、一瞬たりとも気が抜けない。フッ素塗布より前に待合時間だけでエネルギーを使い果たしそうであった。

 結局、問題のフッ素塗布は動物のエプロンをかけた優しそうな歯科衛生士さんが歯磨きの要領で膝に抱いて薬剤を擦り込むというシンプルかつリーズナブルなものであった。まこと、案ずるより生むが易し。

030407