そうめん事件顛末

天からキャベツが降ってきた!
flowers

 大上段振りかぶって結びまで書いておきながらナンですが、「天キャベ」おまけ話など。
 先日旦那が部屋を掃除していたら面白いものが出てきたので、ここでお笑いを一席伺います。


「これ憶えてる?」
 埃を被った菓子箱から旦那が取りいだしましたるは、びりびりに破かれた文庫本。そりゃぁもう、そうめんかというくらい丁寧に細長~く破かれています。それもページ一枚一枚、本の結構な項数を。
「…まだ、とってあったんだ…」

 のんちゃんがまだ、母乳だけが御飯だった頃の話です。
 ちび共を寝かしつけるのにお乳は最強アイテムですが、ただ飲ませているだけというのも何ですから、大概寝っ転がって腕枕、乳を含ませながら、赤ちゃんが寝つくまで柳は文庫本を読んでいるというのが定番のスタイルでした。ところがまぁ、寝かせるつもりが寝かしつけられるという事態が確率30%くらいで発生しまして、はっと気が付くとエラい時間、場合によっては赤ちゃんの方が先に起きているということもしばしばありました。
 その日もまぁ…多分に漏れませんで。
「おーい、たいへんなことになってるよー」
 旦那に起こされて眼を開けると、寝かしつけたはずののんちゃんは既に不在。あれ、どこだと捜してみると、枕元にちょこんと座っている1。そしてなにやら手許にはこんもりと紙屑の山が…!

 まさか!

 はい、そのまさかでございました。最初から寝なかったのか、寝たには寝たけど起きてしまったのか、柳は白河夜船で遊び相手にならないものだから、のんちゃんは柳が手にしていた文庫本で遊んだという次第。カバーを外し、ページを一枚一枚破っては紙の目にそって丁寧に細く長く千切っていたのでした。器用なものです。それはもう、怒る気も失せるくらい楽しそうに、ぴりぴりーっ、ぴりぴりーっと…。

 こういう場合、どっちが悪いと言えばそりゃ寝落ちした柳の不覚なのですから、怒るに怒れない。仕方なく、その本は処分ゴメンナサイしたと思っていたのですが、旦那が取っていたらしいのです。曰く…

「や、パズルしてみようか2と思って」

 やめときなさい、まったく…。
 挙げ句、旦那もその存在を忘れて仕舞い込んでいたというオチがついたのでした。
 改めて見ると、まあ丁寧に…しかも結構な枚数を破いてくれていました。数ページならまだ、旦那の言うようにパズルでもやろうかという気も起きたのでしょうが…10や20とは言わないページ数が完全にちぎり取られて(しかも行方知れずと思しきページもあったりして…まさか喰ってないだろうな)いたのでした。
 まあ一度読んだ本ではあったし、買い直すほどの気力もなかったのでそのまま忘れていたのですが、思い出すと何だか無性に読みたくなって、ネットで古本屋を当たったらありました。当時と同じ装丁のやつが。

 かくして、事件の記念に比較的原形を留めていたカバーだけをとっておき、残骸は今度こそ処分しました。そうして、買い直したその本3 に、全く同じカバーが今はしおり代わりに使われているという次第。

 以上、通称「そうめん事件」の顛末であります。

2021/10/04


 

  1. 当時は赤ちゃんの転落を危惧してベッドは使っていませんでした。
  2. うちの旦那はパズル狂です。伝説の白一色パズルもやってみたそうな…柳だったら5分で諦めます。
  3. ちなみに、永井路子さんの『闇の通い路』という小説でした。平安末期から鎌倉時代をえがいた短編集。この方の小説には、高校時代にとても感銘を受けたものです。