シューキョーが来た!

 某日、就職3年目となった次男坊が「やー、コワかった」とこころもち青い顔で帰ってきました。

 すわ事故か、と一瞬柳の背中を冷たいものが走りました。
 しかし……考えようによっては事故よりコワい返答が。

「シューキョーだった…」

 うん、そりゃ怖かったな。よく逃げてきた。満腔の同意を込めて、柳は次男坊を労ったのでした。

 何でもクライアントから夕食に誘われて行ってみたら、シューキョー勧誘だったという……ある意味逃げようのない恐怖体験をする羽目になったらしいのです。「言ってることはすごくマトモなんだけど、何かコワかった」という感想もむべなるかな。結構しつこく勧誘されたらしいのですが、旦那 1の薫陶が行き届いていたものか、なんとか無事に帰れた模様。

 精神的な支柱ってのは必要ですから、柳は宗教が悪いものだとは思いません。至って真面目に人を救うつもりで布教活動に勤しむ方々がおられますし、その活動のすべてが悪いとはこれっぽっちも思ってはおりません。
 ただ、自分が信じるのは自由ですが他人様に押し付けるのはいかがなものか。況して、顧客であるという強味で他者を引き込むのは一種の犯罪を構成する可能性もあるのではないでしょうか。

 世にシューキョーのタネは尽きませんが、人にある種のエネルギーを与えるものであることは論を俟たないことと思います。エヴァだってある意味宗教に近かった2と思います。それで何を成すかは人それぞれではありますが、他人様の迷惑になるようなことだけはやらかしたくないものです。

 ご用心、ご用心 3

バスケットボールが凶悪だった件

 末っ子のんのんはいまや高校生。家を離れて寮暮らしをしております。

 看護師志望がほぼ固まっている 1ので、高校進学の際には柳の母校も選択肢に挙がっていたのですが、結局自宅を離れて寮つきの公立高校へ進学することになりました。
 寮と言っても結構ユルいものでして、食事も半分自炊。実質、ワンルームマンションにひとりずまいしているようなものです。ただ、辺鄙なことにかけては実家に負けてないので、柳は隔週ないし毎週のように支援物資を届けに行く日々となりました。とはいえ、往復のドライブは結構楽しませてもらっています。とにかく景色がいいのですよ。海が近いもので。

 悠々自適ライフを謳歌するのんのんですが、「電話してもいい?」とメッセージアプリで打ってくるときは、概ね込み入った話がある場合 2です。その夕方も、メッセージアプリに「点呼 3終わってから話せる?」と打ってきた時には、思わず内心で身構えてしまったのでした。

「体育でねー、バスケットボール受け止め損ねてから…なんか左手が痛い」

 をいをい!

 バスケットボールは一応、男子用と女子用、ジュニア用があります。使っていたのは一応女子用だったらしいのですが、それにしたって510~550gほどはある筈。男子用だったら580~620gもあるそうな。バレーボールなら260~280g、サッカーでさえ400~450g 4であることを考えると…バスケットボール、そこそこな重量があります。飛んできたボールを受け止め損ねた、というならそれに加速度がかかるわけで…普通に投げた場合で時速20~30㎞ 5也、というから、素人が油断してると結構ダメージをくう衝撃であることはマチガイないでしょう。
 そういえば、趣味でバスケットやってる人達でさえ、時々指にテープを巻いているのを見かけます。
 バスケットボール、意外と凶悪。

 腫れてるか、熱持ってるか、拍動痛みたいなのはあるか、問診だけでは不安もあって、初めてスマホのビデオ通話機能なんか使いました。痛みのある手をスマホ越しに見せてもらったのですが、どうにもはっきりしない。やっぱり基本は触診だな、という結論に落ち着いて、翌朝寮まで車を走らせました。
 実際にのんのんの手を触って動かしてみて、痛みの状況を確認したのですが、なんか怪しい。
 腫れも熱感もあるっちゃあるけどあまり強くない、動かしたときの痛みはあるけどさほどではない。普通なら「うーん、打撲だよね」で湿布、というところですが、なによりいつもはのんびり構えているのんのんが今回に限ってやたら不安そうなのが気にかかり、思い余って最寄り(といっても車で30分以上かかる…)の整形外科に連れて行ったのでした。 6

 ところが。
 整形外科クリニックに着いて状況を伝える前に、受付のお姐ちゃんから「予約が一杯で診察はできません」とがっつり塩対応をされてあっさり心が折れたのでした。明確な腫れ、熱感、痛みがあったら柳だってもうすこし粘ったかもしれませんがね。
 心が折れたのはのんのんも同様だったらしく、その日はすごすご撤収したのでありました。

 でもまあ、おかげさんで頭が冷えまして。
 乱暴な話…最悪骨折だったりしたところで、転位 7がなければ基本はRICE。Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)ってやつですね。逆を言えば、ただの打撲だったと思っていたら、実は折れてて動いているうちにズレて痛みだすというオチがつく場合もあるんですが。幸いというか傷めたのは左手だった 8ので、固定して安静にさせれば一分一秒を争う事態にはならないという判断に至りました。

 居直った柳はその足でドラッグストアへ駆け込み、手首用のサポーターと貼用の鎮痛消炎剤を買い込みました。なまじ痛みが強くない場合はついつい使っちゃって痛みを増悪させるというケースもままあるので、添える程度に使うのはいいけど重たいもん持つな、動かしていいけど痛みとか腫れが強くなってきたらすぐ連絡、と言い含めてその日はのんのんを寮に帰したのでした。

 結局、ビデオ通話でリモート経過観察しつつ、何とか予約を捻じ込んでようやく診察にこぎ着けたのが受傷後約2週間。捻挫ぐらいならそろそろ落ち着きそうな頃ではあったのですが、一応くだんの整形外科クリニックで診て貰うことができました。

 「…まあ、打撲ですね。レントゲン撮っても何も出ないと思いますよ」

 実はここのセンセイ、以前の上司。…柳の懸念を察しておられたようで、丁寧に触診した後でにこやかにご託宣下さったという次第。ありがとうございまーす!
 のんのんとしては、さらにその2週間後に控えた定期演奏会 9の準備に全力で取り組んで大丈夫?という不安があったらしいのです。お医者さんに太鼓判をもらって憂色を払拭し、「じゃあ、この手しっかり使って大丈夫ね?」と安心したようでした。

 だからって、片手でパイプ椅子束ねて持つな、頼むから…。
 加減を知らんのは多分親譲りなので、叱れもしないというオチでございました。がんばれ、のんのん。かーちゃんはキミのソロ演奏を楽しみにしているゾ。

追記

 完全に余談なのですが。
 この受診をする際、学校から「学校での怪我なので、もし受診するときは書類書いてもらってね。保険下りるから」と日本スポーツ振興センターとやらの災害共済給付金の書類提出を依頼されました。保険診療の自己負担分を(後日の振り込みで)補助してくれる仕組みらしいのですが、これを使った場合、自治体が施行する医療補助制度 10が使えません。二重取りになるからあたりまえですね。よってこの日、支払いが発生しました。
 ところがこの日本スポーツ振興センターの災害共済給付金、なにやら免責事項があるらしくて、自己負担分が少額だった場合は適用外になるようです。今回、初診料のみで上記のようにレントゲンも撮りませんでしたから、免責事項に該当して結局保険が下りなかったのでした。
後日学校から「市役所で手続きすれば、自治体の医療補助制度が受けられますけど…」とお電話をいただいたのですが、そのためにわざわざまた市役所まで行くほうが難儀でしたので結局そのままです。

 自己負担分の補助くらいなら、最初から自治体の制度を使った方が良かったというお話。 いえ、日本スポーツ振興センターとやらの共済制度をクサすつもりはないのですよ。一応(笑)

アップリケするぞ!

 男の子が服破いて帰ってくる、というのはよくあることで、実際にーにーずが小学校の時分には何故ここまで破く、というほどいろんな箇所を破いて帰ってきました。
 まあ、柳としてはせっせとそれを繕う訳ですが、一寸ポケットの端が綻びたとかならともかく、丈夫なはずのデニムズボンの膝を真一文字に破いてくるとなると、正直お手上げでした。そういうときは破けたところでえいやっと切断して、ダメージ風ショートパンツと称して穿かせるという荒技で乗り切った 1こともあります。

 今日の一針明日の十針の譬えもあり、なるべく早めに処置すれば縫うだけで事足りる場合もあるのですが、まあ往々にしてそれだけではどうにもならない、ないし強度が要求されるので縫ったくらいではすぐ裂けそうだというなら当て布ということになります。
 昨今はアイロンで圧着する接着剤つきの補修布も売られています。裂けた部分に裏から補修布を当ててアイロンすれば表面に縫い跡が出ないというメリットもあって、当時から結構重宝していました。見てくれを言わないなら周囲にステッチを入れると更に強度アップ! 2という寸法です。

 それでも破けるときには破けるわけで…あてた補修布のエッジあたりで新たに裂けるというのが定番でした。結局、破くというのはそこに剪断力が常習的にかかる証拠ですから、着てる人間の動作様式が変わらない限り無限ループに嵌まるのは自明というものです。
 ちびどもがちびだった頃はさっくり廃棄したり、本人が承服しないときはこっそり隠したり、なんてこともできたのですが、でかくなるにつれ服のコダワリも増えてきます。

「そんなに言うなら自分で縫え!そうじゃなければ買い換えろ」

 …といいたくなるのが人情というもの。しかし、コトが仕事のユニフォームとなるとそうもいきません。 本来制服ユニフォームなんて企業側が管理すべきものでしょうが、実際には企業によっていろいろあるようです。

  1. 貸与(買ってあげるから退職するときは返してね、洗濯とか補修は自分でやって頂戴)
  2. 購入(自前で買ってね、洗濯とか補修は当然自前だよ)
  3. レンタル(洗濯も管理も外注業者にお任せ。衛生に関わる業種に多い)

 …といったところでしょうか。
 柳自身は1.ですが洗濯は感染対策上職場でまとめて出すことになっていて、それでも補修は自前。次男坊のところは2.なので当然洗濯&補修は柳にお鉢が回ってきます。
 次男坊が仕事に慣れていく一方で、服にはそれなりにダメージが蓄積する訳で…補修する機会が増えてきました。幾ら外仕事とはいえ、お客さんのある仕事ですからあまりみっともない格好もできない筈。

「新しいユニフォーム、支給して貰えないの?」
 と訊いてみたら、
「あぁ、あるけど出すのめんどくせー…」

 心配して損した。
 「次に破いたら○○○(<次男坊の就職先のマスコットキャラクター)でアップリケ 3作って貼るぞ」と脅したら、ようやく破けたユニフォームの廃棄に賛同しました。やれやれ。