人違いのこと、もしくはみっちゃん偽パパ事件

 柳が早くから仕事に復帰し、昼間をばあちゃんズと過ごすみっちゃんは、接する人間の数が比較的多かった所為か人見知りをしない。1お客さんも大好きで、とことこ走り出たかと思うと初対面のお客さんに向かって抱っこを要求する。せんだっては出入りのガス屋のおじさんに抱っこどころか車に乗せろと要求し、「こんなのは初めて」と言われる始末である。愛想がよいのは美徳だが、これほど無警戒にホイホイついていくようでは(殊に物騒な昨今)危なっかしくてしょうがない。

 本来、人見知りも立派な発達段階である。なければないで心配なのだが、一応家族とそうでない人の区別はついているらしく、よく見ていると微妙に反応が違う。単に無制限に上手者であるわけではないらしいので、さしあたっては一安心。

 そんなある日、その珍事件は起きた。
 現在、うちでは合併浄化槽導入のために業者さんが出入りしている。その業者さんたちにもやはり愛想を振りまくみっちゃんだが、ある人物に対しては少々様子が違った。みっちゃんはその人物(Iさん)を見つけるなり、喜色満面でまっしぐらに駆け寄ると猛烈な勢いで抱っこを要求したのである。驚いたのはIさんで、戸惑いつつも抱き上げて暫く抱っこしてくださったのだが、仕事で来ている以上いつまでも遊んでいるわけには行かない。それじゃあねー、と降ろそうとするのだが、みっちゃんはIさんの腕にかぐしりついて(註:しがみついて、の意)離れない。あわてた祖母が(柳は当時不在)ようやく抱いて離したが、今度は泣き喚きその場にひっくりかえって地団駄を踏む始末。Iさんも祖母も弱り果て、結局その日Iさんはあまり仕事にならなかったらしい。

 いったい何が起きたのか?…真相としては、どうやらみっちゃんはそのIさんと旦那を完全に間違えていたらしいのだ。後日柳もお会いしたが、確かに服装・背格好は似ているし眼鏡もかけている。2…だがあくまでも言われてみりゃそうかなあ、というレベルだ。しかしみっちゃんはパパが帰ってきたと確信し、喜んで飛びついたもののどうも反応がにぶくてよそよそしい(<突然のことでめんくらっておられたのだから当たり前)ので焦れて大暴れしたという次第らしい。抱っこしてもらった時点で気づけよ、と思わなくもないのだが…(笑)

 ちなみに後日Iさんにお会いした時、旦那と並んでもらってみっちゃんに「どっちが本物~?」と訊いたが無反応であった。さすがにそこまでお間抜けではないらしい。しかしこの一件で、みっちゃんは人の顔の認知に関しては柳級のド近眼だということが暴露されたのであった。


 ※註)元来、一歳半の幼児は0.4から0.5ぐらいしか見えないらしい。それにしたって柳の裸眼視力よりよっぽどいいぞ(–;

030211

物まねのこと

 大人の仕草を真似る、という話は前項でも触れたが、特に道具を手にすると懸命にそれを使おうとするようになってきた。面白いのが携帯電話。大概バッグの中かホルダの上に置いたままの柳とは違って、旦那は四六時中携帯を手元においている。無論、この面白げなものはみっちゃんの格好の餌食なのだが、あけたり閉めたり舐めたり齧ったりのほかにも、やおら小首をかしげて耳に当てる。そこですかさず「もしもし~?」と声をかけると、暫く喜んでいるのである。一応電話というものを耳に当てて話をするものと認識しているらしい。惜しむらくは表裏・上下逆だったりするのは、まあご愛嬌というものだろう。同様に、櫛を手にすると一所懸命髪を撫でつけるのだが、これも惜しむらくは櫛の歯の反対側を頭に押し付けている。なんだかちょっとズレているのだが、努力は認めてしかるべきかと笑って眺めている次第である。
 ちなみに、前述のようにもしもしの真似だけでなく舐めたり齧ったりも盛大にやらかすため、旦那の携帯は水没寸前(<当然みっちゃんの涎)に陥った。それかと思えばボタンをめったやたらに押しまくり、90秒近くにわたって録音までやらかしていたため、たまりかねた旦那は本物そっくりの携帯のおもちゃを調達してきた。1いつまでもつか楽しみなところである。

030209

走るのこと

 靴の件で頭を痛めていたことについては前回すでに書いたが、これがフタを開けてみるとものの見事に杞憂であった。
 ベビーカーで散歩する間は(機嫌にもよるが)履かせてもすぐに毟り取ってしまっていた。しかしいざ歩くのが達者になってベビーカーを卒業すると、「外のお散歩には靴が必要」という概念が成立したらしい。散歩の頃合になると玄関の上がり框に腰掛け、「履かせて♪」といわんばかりに足をぶらぶらさせる始末。まこと、案ずるより生むが易し。
 それにしても、歩き始めると驚くほど早いものである。本人は歩けることが楽しいらしくどんどんスピードアップしたがるのだが、なにせ危なっかしい。ゆっくり歩けばそれなりに安定しそうなものだが、注意を惹いたものへはまっしぐら、よたよたしつつも走る走る。そして目的のものにたどり着いてしゃがみ込むと、重心が高いものだからうっかりでんぐり返りする次第である。
 感心したのは、自分で歩いていて転んだぶんには決して泣かないことだ。「べちっ!」とか「ごんっ!」とかかなり痛そうな音がしても、ケロッとして立ち上がってはまた歩き始めるのである。…どっちかというと、歩くのが楽しくてそんなところまで注意が回らないのかもしれないが、とりあえず「えらいねー、つよい子だねー」と褒めておく親莫迦全開の柳であった。

030209