発疹の謎

 朝夕が涼しくなる9月半ば、連休前の夜のことである。

「・・・・みっちゃん、首筋がぬくいよ」(温い【ぬく-い】あったかい、熱があるの意)

 測ってみると38℃後半。ただし食事は食べるし多少ぼじれ気味とはいえ機嫌は悪くない。夜の冷え込みで風邪ひいたかな、と額に「冷えピタ」を張って様子をみた(<すぐに剥ぎ取ってしまったが)。
 三日目の朝には熱がひいたのだが、今度は柳が頭痛を催してきた。貰ってしまったのは明白である。未だに乳を与えている手前、うっかり薬も飲みたくない。しかしひどい頭痛に耐え切れなくなって、頭痛薬を一包だけ飲んだ。
 みっちゃんはといえば、時々鼻水がでたり、咳をするときもあったが概ね元気。柳のほうがずるずると症状を悪化させていたくらいのものだが、最初に熱が出てから5日目の昼過ぎ、両下肢に発疹が現れた。
 すわ麻疹か!?と小児科へすっ飛んでいったが、さにあらず。「アレルギー性の発疹ですね。今までになにかアレルギーを起こしたことがありますか?」そう問われ、首を傾げた。自慢じゃないが、うちの家系は割合に強靭で、アレルギーとは疎縁である。肉、卵、その他アレルゲンになりそうな食材は既に結構食べているが、発疹が出たことなぞ一度もない。

 抗アレルギー剤が処方になったものの、なんとなく釈然としない。…処方?

 その時、エライことに気がついた。みっちゃんに発疹が現れる前の晩、柳が飲んだ頭痛薬。…あの後、柳は迂闊にも授乳している。

「…ひょっとして、薬疹じゃあ…」

 しかし他に思い当たることがない。母乳なんぞ血液を濾したものなのだから、薬剤の成分が移行してもおかしくない(<それゆえに授乳中は軽率な服薬はご法度)。なんということであろう。危険を知っていながら、まさか一包くらいと思ったのが間違いのもとだった。

 結局その発疹についてはそれ以上拡大も悪化もなく消退、風邪のほうも治ってしまった。本当に薬疹だったかどうかは追試してみなければわからないが、無論そんなコワいことはするつもりはない。…ただ、今度薬を飲まねばならない時は、みっちゃんが泣こうが焦れようがお乳は勘弁してもらうのが正解のようである。やれやれ。

大泣きの謎

 満1歳を迎えると、それなりに自己主張が出てくるという話は前項でも触れたが、今回はそれにまつわる(かもしれない)話。
 我が家におけるウィークデイの帰宅は、6時きっかりの母をトップに30分ばかり遅れて柳(+みっちゃん)、さらに1~2時間遅れて旦那という順番である。この1~2時間の間に柳はみっちゃんと自分の風呂を済ませ、母屋で夕食をたかるついでにみっちゃんのお傅を頼んで旦那の夕食を支度するというハードスケジュールをこなすわけだが、無論旦那の帰りが早いときには夕食の準備を2.5人前にして一緒に食べることもある。その場合、みっちゃんにはお風呂からあがってしばらくダイニングで待ってもらうことになるのだが、普段は椅子に座らせればちゃんと待ってくれる。

 しかし、その日は違った。
 おとなしく椅子に座ったまでは良いが、いざ柳が支度にかかると火がついたように泣き出したのだ!
 とりあえず、怪我を疑った。リクライニングの椅子だから、起こした時にどこか挟んだか。・・・Noだ(<大体、それなら挟んだ瞬間に泣き出す)。では虫にでも刺されたか。・・・これもNo。腹が減ったような泣き方でもないのだが、とりあえず乳を含ませてみる。大抵はこれでカタがつくのだが、これもNo。それなりに腹も減っている頃合なのに、乳に反応しないというのは既にしておかしい。とにかく泣き方が尋常でないのに危機感を煽られた柳はみっちゃんを担いで母屋、ばあちゃんズのもとへ走った。
 「みっちゃんがおかしい!」
 母は柳の疑ったようなことをひととおり尋ね、代わるがわる宥めてくれた。すこし落ち着いたところへもってきて、すかさずヨーグルトの匙を差し出すと・・・・食べた。与えたら与えただけ食べ、機嫌もケロっとなおっている。

柳:「・・・何なんだ、一体」

母:「わかんないけど、とりあえずみっちゃんはこっちで食べさせるから、食事しといで」

 ばあちゃんズ、強し。

 結局みっちゃんは夕食をばあちゃんズのもとでご馳走になり、ご満悦での帰還を果たしたわけだが、謎なのは大泣きの理由である。
 「いつもは風呂上がってすぐばあちゃんズのところで食事にありついてる訳だろ? 『お風呂上がったのにお食事につれてってもらえない!』とか思ったんじゃないかな」・・・というのはみっちゃんとの夕食がお流れになってちょっと残念だった旦那の弁。そんな阿呆な・・・といいかけて、あまりにも符合するので思わず唸ってしまった柳である。
 そうだとしたら、これが済んだらこれ、という習慣もしくは時間的観念を身につけつつあるということになる。お乳に反応しなかったのは、食事との区別がつき始めているからとも考えられるのだ。
 そんなことがあってから、みっちゃんの食事の準備ができてからお風呂に入れるようになった。爾来、謎の大泣き事件は起きていない。本人が未だ「まんま!」と「だぁ!」ぐらいしか言えない身の上では真相は謎のままだが、主張といえば生理的欲求だけだった時代は終わりを告げているのだと痛感した一件であった。

お泊まりするのこと

立つのこと

 6月後半に入って、みっちゃんがやおら立ち始めた。…無論まだつかまり立ちではあるが、つい半月ばかり前にようやくまともに這い始めたというのに、勢いがついたか早いものである。
 視点の変化が面白いのだろう、とにかく掴めるものは何でも掴んで立ち上がる。まだかなりお尻がぐらぐらしているが、本人はいたくご満悦である。視点の変化に伴い探索範囲も広がり、棚の上だからといって安穏とはしていられない。おまけにいっちょまえに自己主張なぞしはじめたので、一旦手に入れたものを危ないからといって取り上げるとおそろしく不機嫌になるから厄介だ。…もっとも、完璧に安全なものなぞありえないのだから、危険を回避できるところまで静観というのが正解なのかもしれない。

お泊りするのこと

 来月(8月)2日を以ってみっちゃんは満1歳になるわけだが、その前祝の意味もあって家族三人で一泊旅行をすることになった。目指すは海ノ中道マリンワールド。その気になれば日帰り圏内ではあるのだが、赤ちゃん連れで強行軍はよろしくあるまいということになってあえて一泊することとした。
 生後すぐに黄疸で再入院したのを除けば、みっちゃんにとっては初めてのお泊りである。
 折角北九州まで行くのなら、久々にスペースワールド1へ覗いてみるのも悪くない。昨今、0歳児でも利用可能な施設もあるらしいと聞いて、宿はスペースワールドのそばに取った。
 乗ったアトラクションといえば観覧車と惑星アクアくらいのものだったが、アクアでは係員さんにえらく怪訝な顔をされた。(<しかしオフィシャルサイトには乗れると書いてあった!)
 祝日・連休・夏休みという混雑のお膳立てがそろっているはずのスペースワールドは、どういう加減かガラガラだった。お昼も食べて、さてお土産でも見繕うかねという時間になってようやく混雑が始まったのを見て、朝イチで乗り込んだのは正解だったと旦那と二人で頷きあったものである。
 で、主役のみっちゃんはといえば…
 観覧車の中で乳を要求し(<飲食禁止のアナウンスに思わず苦笑)、惑星アクアではきゃあともみゃぁともいわず柳に掴まっていたのだが、ベビーカーで揺られている間に眠くなったらしく、お昼を食べに入った時には見事爆沈。「みっちゃん、ごはんだよー、なくなっちゃうよー」と起こしても、口許にきらりと涎を光らせて反応なし。ようやくデザートになって目を覚まし、かろうじてアイスクリームを食べた。夕食で入ったファミリーレストランでも寝倒しそうな勢いだったので、流石にまずいと起こしたところ、大変なご立腹で宥めるのが一苦労であった。
 ゆめ、旅先とはいえ大人のペースで物事を考えてはいけない。わかっていたつもりだったのだが、なかなか思うほどにスケジュールが組めないものである。

 それはさておき、宿の話。旅行まで2週間を切った時点で予約が取れた奇跡を有難がっていた柳であるが、ひとつだけとんでもない誤算をしていた。ライトアップされたスペースワールドが見渡せるなかなかいい部屋だったのが、惜しむらくは洋室だったのである。洋室が何故まずいか?そこに柳は入るまで気がつかなかったのである。…つまり。

みっちゃんは、ベッドの上だけでじっとしてなんぞいられない!

 洋室の床はつまるところ土足である。いかにきれいに見えたところで、這いまわったりごろごろしたりするのが適当な場所ではないのだ。みっちゃんが這い始めるまえなら洋室でもよかったのだが、這う、転がる、立ち上がるetc.…動くのが面白くてたまらないお年頃のみっちゃんに、ベッドかソファの上だけで我慢しろというのはどだい無茶な要求なのである。今度宿を取るとしたら絶対に和室だ、と心に誓った柳であった。

 結局、昼間寝倒したみっちゃんは夜中に元気凛々、夜中の一時前まで大活躍であったのだが、そのあたりの悪戦苦闘については省略。

 翌朝はホテルのレストランでバイキング。選べることの便利さをとことん堪能させていただいた朝食であった。みっちゃんは夜中の大活躍はいつのこととばかりに元気いっぱいで、お子様メニューのホットケーキやスクランブルドエッグでご満悦であった。持参したマグでオレンジジュースも飲んで、エネルギー充填120%!のところで、本来の目的地である海ノ中道マリンワールドへ突撃した次第である。


 昨今の公共施設には、赤ちゃん連れでも不自由がないように授乳室・オムツ替えスペースがきちんととってある。実際に赤ちゃん連れで動いてみないとこの有難味はわからないものだ。マリンワールドにも授乳やオムツ替えの部屋が用意されていただけでなく、車椅子・ベビーカーでも観覧に不自由がないように順路が設定されており、柳はいたく感動した。しかし肝心のみっちゃんは、アーチ状の水槽(<つまり、魚が泳ぐ姿を下から見上げる)には多分に興味を示したものの、普通の水槽にはTVと同じ程度の反応しか示さなかった(笑) イルカショーに至っては、(戸外のため)暑いと焦れ出す始末である。まあ、致し方あるまい。

 以上が「みっちゃん初めてのお泊り」の顛末である。面白かったのは、旅行中幾度か雨がぱらついたり、時に雷雨にさえなったのに、みっちゃんの移動中はどういうわけか雨が待ってくれたことである。みっちゃんがチャイルドシートにおさまるのを待っていたように、雨がぱらつきだす。車に乗っている間に結構降っていても、みっちゃんが降りる頃には殆ど止んでいた。どうやらみっちゃん、晴れ男2のようである。