はじめての寝返りの悲劇

 たっくんが、なかなか寝返りしないという話は前回書いた。横向きまでは頻繁にやるのだが、あともう少し!が進まなかったのである。

 寝返りというごく単純な動作も、調べると結構奥が深い。キーポイントは頭(頚部)、肩(肩甲帯)、お尻(骨盤)の三つ。これらをある程度随意的に動かすことが出来るようになるという課題がクリアされて初めて寝返りの準備が整う。
 頚部については、いわゆる首の据わり(<頭部の位置を保てるようになる。要するに、抱き起こしても頭がついてくるようになったことを指す)が出来ていればOK。
 肩甲帯の場合、回転運動が起こるには手が正中線を越えて対側へ持っていけるようにならなければならない(要するに、仰向けで「前へ倣え」をやった状態で、両腕を一緒に右左どちらかへ倒した状態を想像されると良い)。物心ついた頃にはどうということもない動作だが、これがある段階までの赤ちゃんにとっては結構難しいらしい。
 そして問題は骨盤である。これは当然ながら、両脚という身長の半分近くを占める(<赤ちゃんの体型だともうちょっと比率が低いが)巨大なウエイトが付属している。これをある程度コントロールできなければ、寝返りは難しい。(<仰向けで両足を持ち上げてみてもらうとわかるが、結構腹筋が必要な動作である)逆を言えば、両足を持ち上げることが出来るならあとは肩甲帯と同じ理屈で、左右どちらかに倒すだけで簡単に横向きになれるのである。

 ここまで書くと、「それじゃ横向きになれば寝返りできたってこと?」と思われそうだが、実はそうでもない。大人が寝苦しくて打つ寝返りではなく、ハイハイへの道程としての寝返りはうつ伏せまで行かなければ意味がないのである。
 では、何が必要なのか。これも、実際に仰向けからうつ伏せになってみるとわかるのだが、真横になったところで頚部と下肢が伸展すればよいだけなのである。動きとしては獲得していても、タイミングが掴めていない為に動作が完遂できないのだ。・・・つまり、タイミングを合わせて伸展の動きを介助してやればよい・・・のだが、そこまでしなくても普通は偶然完遂した寝返りを基に学習していく。(<但し学習には動機が必要だ。玩具を取りたいとか、気になる物体をよく見たいとか)

 長々とブッたが、さしあたって心配するにはあたるまい、というのが柳の結論である。1案の定、たっくんは先日ついに寝返りを完遂させた。・・・たっくんの不幸は、柳がたまたま座を外していたため、うつ伏せになったものの戻れず、頭を擡げているのにも疲れてしまって、暫く布団に顔を埋めてもがく羽目になったということだろう。えらくはしゃいでいると思ったら、何か妙に声がくぐもってきたので慌てて行って見ると、布団から半分はみだした格好でうつ伏せてじたばたやっていたのである。
 起こすとケラケラ笑っていたので、窒息しかかっていたわけではなさそうだったが、寝返りも出来たら出来たで心配事が増えるものである。

 これも先日のこと、銀行で柳が手続きする間ソファに寝かせておいたら、あろうことかリュックの紐を追いかけて寝返ってしまいソファから転落した。先に落ちたリュックがクッションになったのと、柳が差し出した手が間に合ったので事無きを得たが、冷汗三斗とはこのことである。それを目撃していた窓口嬢は、わざわざカウンターから出て柳のところまで通帳を持ってきてくれた。お心遣いにこの場を借りて御礼申し上げる。

 その後はまさに一日ごとに上達し、今はふと目を離すとうつ伏せになっていることも多い(<むしろうつ伏せ寝を好んでいるフシもある)。頭を擡げておくのに疲れても、顔を横に向けておけば苦しくないということも学習したらしい。肘を伸ばし、掌で上体を持ち上げることも出来るようだが、まだお尻が上がらないので這うところまでは難しいようだ。足は必死で蹴っているのだが、お尻が重く推進力としてまだ不足らしい。しかしこの調子なら、這うなり転がるなりして移動方法を身に付けるのはすぐのことであろう。

050617