水底の光景

 うちの渡り廊下には、水槽を置いています。ハヤとヤマトヌマエビ、その他ご招待した憶えのない生き物たちが(ほぼ勝手に)棲息しているのですが、概ね平和にやっているようです。渡り廊下の屋根は半透明のポリカなので、天気の良いお昼は陽光が差し込んで綺麗ですし、ハヤは色合いとしては実に地味な魚ですが、泳ぐ姿はそれなりに美しいものです。
 ところが今日のお昼にふと水槽を覗くと、ハヤが一匹、水底でお亡くなりになっていました。

 先週換えたばかりの水は綺麗だし、他のハヤたちは元気いっぱい。何が起こったのか?
 ともかくも遺骸を水底から引き揚げてみると、大きくあいたハヤの口から別の顔が覗いている。
「まさか共食い!?」
 実直にあまり気持ちの良い見世物ではないのですが、ハヤの食性からいってその線も棄てきれません。餌が足りなかったのか?と思ってとりあえず調べてみると、ハヤの口から覗いている顔の後ろに、平べったく白い手がくっついているじゃありませんか。

 …ヤモリでした。

 本来ヤモリというと、虫を食べています。うちの台所の窓なんて、藪に面しててしかも他に光源がないもんですから…いつも夜になるとヤモリが1~2匹は居座ってディナーしてます。黙ってても餌が勝手に寄ってくるという、ヤモリにしてみれば笑いが止まらない環境ですね。当然、時々家の中も這ってますが、渡り廊下の屋根を這ってるうちに誤って水槽に転落でもしたのでしょう。…で、ハヤの餌食になったと。
 ハヤといえば10~15㎝のムカデでさえ、池に落ちれば寄ってたかって食いちぎる連中ですが…このハヤは少々食い意地が過ぎたようで、ヤモリを丸呑みにしてしまったものと思われます。挙句、呑み込みきれずに窒息したというのが真相のようで。

 待て、鰓呼吸する魚って窒息するのか!?

 肺呼吸する生物は口と鼻から空気を取り込み、その空気を肺へ出し入れすることでガス交換を行います。空気の通り道は途中消化管と交通しているため、何かのマチガイで口から食べたものが気管側へ落ち込み詰まったりするのが誤嚥。最悪、いわゆる窒息が起こります。誤嚥からくる窒息は幼児や高齢者であれば決して珍しい事故ではありません。
 それは解るのですが、鰓呼吸している生き物が窒息する状況というのが柳には一瞬想像がつかなかったのでした。そこで調べ物。最近は本当に便利で、魚の解剖図ぐらいすぐにヒットするのですね。

 魚は口から呑み込んだ水を鰓に送り、体外に排出します。そうして水に溶け込んだ酸素を鰓から取り込むことで呼吸が成立している訳です。同じく口から入った食べ物は、当然鰓ではなくて(鰓の開口部をスルーして)食道を通して胃へ送られます。しかし口から覗いていたヤモリの顔のサイズから推測して、おそらく呑み込んだヤモリの身体がこのハヤの口から鰓の開口部分までを完全に塞いでしまい、水を飲み込めなくなって(=鰓に新鮮な水を送ることが出来なくなって)窒息したと思われます。

 まあそうすると、肺呼吸だろうが鰓呼吸だろうが、いわゆる窒息というやつは状況としてはあまり差がないのですね。あぁ南無南無。