夢の素描

緩やかに壊れゆく部屋で
ダンボールに荷物を詰めている私
緩んだ畳と畳の隙間から
歪んだ柱の亀裂から
宇宙が見えている

ここにはもう住めないんだよ
空気がそう言うんだ

開け放たれた縁側の戸の向こうには
かわらない庭が見えるのにね

そんなに持ってゆけないよ
そう言って誰かの手が
荷物を詰めるのを遮った

緩やかに壊れてゆく教室で
最後の授業が始まっている
起立、礼

妙にうす暗い教室のみんなは
何故かシルエット
みんな?みんなって誰のこと?

何もかも終わりになってしまう訳じゃない
ここにはもういられなくなるだけのこと
そう言っているのは、
先生ですか

緩やかに壊れてゆく世界
そうだ、何もかもが終わる訳じゃない

詰め終わらない荷物
そんなに持ってゆけないんだよ
あそこは狭いから
ダンボールの前に座り込んでいると
誰かが囁いた

荷物は詰め終わったのか
青い青い星を遥か眼下に
私は今どこにいる?

宇宙はとても広いのに
どうしてあの星よりも狭いの

もう土を踏むことはないんだね
そう言って人工物の間から宇宙を見た
そう、狭いはずだよね
広いはずの宇宙をこんな物で囲って
やっと呼吸いきをしている

なくしたものはたくさんあるのに
どうしてこんなに落ち着いてるんだろう
傘を忘れた帰り道みたいに
冷えた胸をかかえて

涙も出ないよ
どうしてだろうね

何もかも終わりになってしまう訳じゃない
ここにはもういられなくなるだけのこと
いのちはずっと続いていくんだよ
なのにどうしてこんなに胸の中が冷たい?
自分が吐く息が
まるでフリーザーから零れたよう

マイナス10℃の息を吐いて
私は私の荷物を開ける
マイナス10℃の息を吐いて
私は嘆く

ああ
私はいったい
こんなところまで何を持ってきたのだ?

1992,11,24,
ある朝の夢。