夕刻

小さいくせに重い荷物を置いて
アパートの鍵を開けた
昼間の熱気を残す
がらんとした部屋

今夜とあしたの食事を
冷蔵庫のあったところへ置いて
部屋の熱気を逃がしにいく

今日はかえってくるはずではなかったんだけれど 

テーブル代わりに椅子をおいて
買ってきたサンドイッチを並べる
今夜の夕食

やかんを持って行かなくてよかった
お湯を沸かして
コーヒーをいれた

サンドイッチ、そして出来合いのサラダ
暮れてゆく窓の外を見ながら
がらんとした部屋で
簡単な夕食をすませた

むこうの街に
灯がともり始める 
小さいくせに騒がしい客のもてなしに
緑のうずまきへ火を付けた
まだ5月の始めだっていうのにね

ラジオからは7時台のニュース
食後の紅茶 
好もしい時間 

来週からのことも
来年からのことも
とりあえず今は忘れる
今、この時間を愉しむために

どうにかなるさ
なんとでもなるさ
とりあえず今は忘れる
今、この時間を愉しむために

どうしたっていうんだろうね?

いつの間にか稜線を見失う
ああ、夜だね
ノースリーブはまだ少し寒い
羽織るものはなかったっけ

初夏の夜
暑くもなくて、寒くもない
雨も上がったし
いい夜だね

みんな忘れて
とりあえず今夜は幻想に遊ぶ
あした朝起きたら
まっすぐに見つめるから

ベランダの窓を
何かが叩いてるね
ここは2階だよ?

一度閉めたカーテンを
もう一度開けてみようか

「今晩は、どなたですか?」

今夜はみんな忘れて、こころを空に泳がせよう

好もしい時間
思わぬ空白がくれた
たいせつな時間

1993,5,7,


暗澹たる時代の所産には違いないのですが、何かのはずみでふっと何かが吹っ切れてしまったときの走り書きであったかと。
勿論、この後も悩み苦しみ七転八倒したのです。まあ、そんな時代もありました。

長崎修業時代、それも実習中。実習は2ヶ月にわたるので、冷蔵庫まで宿舎に持って行きました。それでも週末となると、冷蔵庫さえない自分のアパートに帰ってきて、何もない部屋でひたすら寛いでいたのです。当時はパソコンなどなく、TVさえも置いていませんでした。CDラジカセが唯一の音源でしたねえ。そうそう、当時はラジオドラマなんてものもよく聴いてました。