群 -むれ-

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意志を持たぬままに           
進み続ける群のなか           
彼もまた歩き続ける           
だけど彼は思っているのです       
『出来るならここから抜け出したい』と 

 

彼は歩いているのが苦痛なのです     
疲れたとか               
行くのが嫌だとか            
そういうことではありません       
歩き続けていれば            
何か良いことがあるでしょう       
それでも彼は              
歩いているのが苦痛なのです 

      

彼は怖れているのです          
歩き続けることによって出会える筈の   
たくさんの楽しいことより        
それと多分同じだけの苦しみや悲しみを  

誰もが気付いているのかも知れないが   
誰も気付いていないのかも知れない    
誰もが気付いていながら         
誰もが《詮無き事》と          
黙っているのかも知れない   

     

歓喜と苦痛よりも            
彼に永劫の平安を            
彼はそれを欲しているのです

       

誰も助けてはくれなかった        
誰も聞いてはくれなかった        
誰も呼んではくれなかった 

       

彼には助けを求めるべき人がいない    
歓喜と苦痛よりも            
彼に永劫の平安を 

           

彼はそれを欲しているのです

       

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[su_note note_color=”#ededec” radius=”1″]1990年某月某日。(<原本散逸につき不詳)[/su_note]