西方奇譚

西方奇譚

西方余談

実は、この数年後に竜禅の都・天河で二人が再会するくだりの小咄もあったりするのですが、あんまりにもしょーもないので削除しました。まあ、「綺譚」当時、サーティス16歳、エルンスト18歳だったというまるで詐欺のような年齢が暴露されるだけのオチです...
西方シリーズ

西方奇譚Ⅴ

翌朝…というより、次にエルンストが目覚めたとき、起きて出てみるとあの最初の部屋から人の気配がした。 四角い窓は一面黒く塗り潰され、あの文字が何列も現れては消える。当然、操作卓の前の椅子にはサーティスが座っていた。「エルンスト」 椅子から立ち...
西方シリーズ

西方奇譚Ⅳ

此処よりはるか東方に、ツァーリという国が、あった。 百数十年前の「大侵攻」により、一躍その勢力圏を拡げた国である。王家と、「大侵攻」に大功のあった王弟にその始祖を持つヴォリス宰相家が実権を握っており、両家は何代にもわたり婚姻によって深い血の...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅲ

確か母が病死したときも、こんなには悲しくはなかったように思う。 目の前で消えようとしている命。絶対に失いたくないものであるのに、それをここに留める力は、自分にはなかった。 無力だとわかっているから、声が涙声になる。終いには何も言えなくなって...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅱ

サーティスと呼ばれたその少年が客間で待たされた時間は、そう長いものではなかった。「お呼びだてして、申し訳ありませんでした」 扉が開き、腰を覆うほどの艶やかな黒髪の、三十ばかりの女が姿を現した。「イェンツォの“老”・サーティス様…初めてお目に...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅰ

雨が、降っている。 彼は肩と脇腹の拍動痛に耐えながら息をひそめ、雨音に混じる荒々しい足音に耳をそばだてていた。肩の傷はともかくとして、脇腹の傷からは押さえている手を真っ赤に染める程の出血があった。 外を数人の足音が通りすぎるのを聞き、深い息...