篝火は消えない

篝火は消えない

篝火は消えない Ⅴ

崖下に繋がれていた小舟が、明け始めた空と海の間に滑り出る。 それまで押し黙っていたレオンが、絞り出すように呟いた。「俺にはわからないよ。・・・何故、何が待ち受けているか目に見えてる王城なんかへ戻って行くのか。 そうまでして護らなきゃならない...
篝火は消えない

篝火は消えない Ⅳ

「この道は……」  アリエルの声に我にかえる。いつの間にか相当走ったらしく、森を構成する樹々はがらりとかわっていた。慣れない騎行にずいぶんと余計な力を使っていたようだ。腕に軽い痺れさえあったが、それほどに力を入れなくて済むことにようやく気付...
篝火は消えない

篝火は消えない Ⅲ

『お前は、絶対に死ぬな』 ―――――おれなんかより、お前らが斃されることのほうがシェノレスにとっては損失だろ、と笑ったら、たっぷりと説教をくらった…。 レオンは傷を押さえ、牢の冷たい壁によりかかって座っていた。 ミオラト。昔は王城として使わ...
篝火は消えない

篝火は消えない Ⅱ

イェルタ海戦において、シェノレスのレオン・捕縛。 王城において、ツァーリ王カスファーみずからによる審問が行われた。 中庭に引き据えられた虜囚を、百官がとりまく。国王は階きざはしの上からそれを睥睨し、憎々しげに吐き捨てた。「シェノレスの守護神...
篝火は消えない

篝火は消えない Ⅰ

海は、血生臭い喧騒けんそうに満ちていた。 数多の軍船が入り乱れ、波の上には敗者の骸むくろと砕けた船や武器が散乱する。 衝角で横腹を貫かれた船が、浸入した海水の重さにはぜ割れる。その悲鳴にも似た音が波を圧し、憑かれたような鬨の声、櫂と船体の苦...