Senryu-tei Syunsyo’s Room(Novel-Ⅲ)
Evangelion SS「und der Cherub steht vor Gott!」
「いや、多分11番目さ」
場違いなほど軽い声で、彼は言った。そして、先刻までリツコの手の中にあったはずの拳銃を真っ直ぐにゲンドウに向ける。
「はじめまして、碇司令?」
ゲンドウは眉一つ動かさない。ただ、銃口を完全に彼に定めて、低く呟いた。
「―――――生きていたか」
「へえ・・・ご存知とは恐縮」
言う方も言う方なら、言われた方も微塵も動じることなく愉しげに笑う。顔をひきつらせたのは、リツコだけだった。
「・・・何の用だ」
「僕がここでこうしてあなたに銃を向けている以上、説明するまでもないことだと思いますが?」
だが、お互いに発砲することはなかった。不気味なほどの沈黙が降りる。
その時、遠い爆音に遅れてドグマ全体が揺れた。戦自が「不要な」施設を爆破し始めている。
大深度地下施設であるターミナルドグマが、上層部をわずかばかり爆破されたからといって即座に崩れたりはしない。だが、ごく表層の壁材がその振動で剥がれ、落下した。・・・ゲンドウの頭上に。
だが、壁材は光の盾の前に文字通り粉砕された。
そのさまを見た彼が、苦々しげに言い放つ。
「・・・自分の目的の為なら何を踏みにじることも辞さないそのやり方・・・いっそのこと、尊敬に値しますよ」
飄然とした緑柱石の双眸が、初めて曇った。
「でも・・・決して、アダムの子らがあなたを赦すことはない」
銃をおろした瞬間、彼の背に再び闇色の翼が現れる。・・・翼としか形容しようのないものであったが、額面通り鳥類が所有するそれでは絶対にありえなかった。
これに類似した闇の色を、リツコは見ている。・・・“夜”の名を冠した使徒が現れたときだ。第3新東京市を覆った虚無の海の色・・・!
ゲンドウが発砲する。
だが、弾丸が届くことはなかった。金属の床をも拉ぐほどの重力波が叩き付けられ、弾丸は床にめり込んだ後、床ごとまくれあがって吹き飛んだ。
さしものゲンドウが顔を腕で庇って後退する。その間に、闇色の翼が目前の姿を覆い隠した。
棒立ちになったままのリツコを腕の中におさめ、闇色の翼をその身にまといながら、彼はかすかに悲しげでさえある苦笑を漏らした。それに気づいて、ゲンドウが脇を見る。
レイが、不可解なものでも見るような眸で・・・かき消えてゆく闇色の翼を見ていた。
「ただ、生きたいだけ」
失血の所為で、幻でも見ているのだろうかとミサトは思った。
5人目の適格者。そして、初号機が扼殺したはずの第17使徒。
それが、今目の前にいた。あの時の、不自然なまでに人懐っこい笑みではなく、どこか悲しげでさえある微笑を湛えて。
どういうことなのか。いや、それが駄目ならせめて敵か味方かだけでも判れば。・・・しかしそれを判断するための情報が足りない。それに・・・もう動けない。
シンジはへたりこんだまま、声も出せずにただぽろぽろと涙を流していた。
彼を責めることはできまい。彼の悲嘆を、ミサトは知っている。
だが自分の身体はおろか、口を開くことすら億劫になっているのに気づいて、ミサトはちいさく吐息した。そして、重たくなった瞼を緩慢に降ろす。
・・・・ここまでか。
だが、大きな手が触れた気がして薄目をあける。
狭窄した視界には、自分が流した血の他、最初は何も映らなかった。
誰かが、呼んでいる。
その声の主を視界に入れようと、僅かに首をもたげた。・・・・・だが、シルエットが鮮明な像を結ぶ前に、彼女の意識は途切れた。
薄闇の中で、リツコは身体にかかる上向きの加速と低い機械音、そして少し苦しげな息遣いに我に返った。
記憶がとんだような気がする。ターミナルドグマで闇に包まれたと思った。あれから時間が経っているのか、いないのか。
右手にリツコの拳銃を握り締めたまま、左手で胸の上を抑えて荒れた呼吸を宥めているそのシルエットに、リツコは声をかけそこねた。・・・何と、呼びかけていいのかわからなくて。
肩を越える銀色の髪は記憶にない。だがその面差しは・・・・
「・・・・震えてるの?」
だから、リツコが訊いたのはまったく別のこと。先刻の様子からはひどく不似合いな、肩先の震えに気づいた所為もあった。
「・・・・他者に銃を向けるっていうのは、相手が誰であっても恐ろしいものさ」
だがその声は、震えてはいなかった。
「人を撃ったことがないのね」
「幸いにして・・・ね」
苦笑しながら、彼は自分の指を銃から剥がしにかかった。
「・・・私は、あるわ」
安全装置を戻して、肩にかけたリュックに銃を突っ込む。ばらばらになった髪を再び括り直して、彼はリツコの独白を黙って聞いていた。
「人を殺したわ。憎くもない人を撃ったわ・・・・それでも、何も感じなかった・・・」
彼は何か言いたげにリツコを見、一瞬だけ口ごもった。
「・・・それって、監察部の加持って人のこと?」
リツコがはっとして顔を上げる。
「・・・・その人なら、生きてるよ。もうすぐ出会うことになると思うけど」
そう言って、あらぬ方を見て小さく吐息した。その後に降りるのは、また沈黙。
だがその沈黙のお陰で、リツコはようやくここがターミナルドグマと本部を結ぶエレベーターの中であることを認識し始めていた。
先刻見た翼がリツコの考えた通りのものならば、彼はリツコを連れてターミナルドグマからこのエレベーターの内部まで、空間を転移したことになる。
第12使徒レリエルが、第3新東京市へ忽然と現れ出たように。
そしてドグマの床を拉いだ重力波は、第10使徒サハクィエルが衛星軌道上で探査衛星を圧壊させたのと同質のもの。・・・・おそらくは、ATフィールドの応用・・・。
だが、その姿は。
「・・・・榊・・・君?」
彼女にしては珍しく、逡巡を含んだ呼びかけであった。つい先刻、展開された場面を含めても、なお納得するには困難があったからだ。
「・・・ありがとう」
彼は微笑んだ。・・・とても、穏やかな緑。
「・・・どうして、そんなこと言うの」
「何?」
「“ありがとう”って」
「おかしいかな」
「・・・知っているんでしょう。私が何をしたか」
リツコの声は硬かった。だが彼はそれに頓着するでなく、あくまでも飄然。
「僕が“ありがとう”って言ったのは、あなたが僕を榊タカミと認識してくれたことに対してだよ。・・・あなた誰、とか言われたらどうしようかと思ってたから」
「・・・違うの?」
返答には、一瞬の遅れがあった。が、調子は変わらない。
「実の処、よくわからない」
こころもち表情を隠すように彼方を見、しばらく考えるような間があった。
「第3新東京市で、MBCIに勤務してた“榊タカミ”と同一人物かと言われると、YesでもNoでも語弊を生じるんだ。・・・かといって、シグマユニットを不燃ゴミにしちゃった某と同じ者かと問われても、やっぱりYesでもNoでもないし・・・」
そう言って苦笑と共に肩を竦め、悪戯っぽく両掌を返してみせる。
「・・・・やっぱり、わかんないね」
一瞬、思わず状況を忘れてリツコは笑ってしまった。それを見て、彼もまた笑う。
「正直、なんて名乗ったものか見当つかなくてね。でも・・・あなたがそう呼んでくれるなら、それでいいよ」
ていよくはぐらかされたような格好だが、リツコはそれ以上詮索しなかった。・・・言ってみれば、詮索する気力すら失せていた。
本当に、死ぬつもりだった。補完計画も・・・なにもかもが、もうどうでもよかった。だから、「莫迦なことをしている」と醒めながら、自爆プログラムをMAGIに打ち込んだ。
それが作動しなかったときに、全てが終わっていた。行動を起こすのに必要なエネルギーの全てを使い果たしている自分に気づいたのだ。・・・そう、本当に終わらせようとするなら、あのまま自分の頭に銃口を当て、引き金を引いてしまえばよかったのだ。
そうするだけの気力さえも、既になかった。ただ、無様な自分自身を嗤うだけ。
―――――――では、今ここにいる自分は何・・・?
「あなたは、あんな処で死んじゃいけない。手を貸して貰えるかい?」
思考の途中で不意に飛び込んできた声に、肩を震わせて視線を上げた。穏やかな言葉は、先程までのそれと違ってわずかに決然とした響きを持っていた。
「・・・あなたじゃなきゃ、駄目なんだ」
薄闇の中で、穏やかな緑が自分を直とみつめている。リツコは一瞬、呼吸を停めた。
「・・・・わたし・・・?」
その時、エレベーターが停止するときの浮遊感が二人を包んだ。
「・・・・・カヲル君・・・カヲル君」
とめどなく落涙しながら、まるで傷んだレコードのように、シンジはただその名前だけを繰り返した。
別の通路から加持が出てきて、ミサトの側に膝をついたことさえも意識の外。
おそるおそる近寄ろうとするシンジに自分の存在を確かめさせるように、カヲルは身を屈めてシンジが差しのべた手を取った。
「・・・・・君は、僕の望みを叶えてくれた」
その言葉に、シンジが身を震わせる。そうだ、自分はここで・・・・
「間違えないで。あれは僕が望んだこと」
シンジの反応に、カヲルは鋭く言葉を継いだ。だが、すぐに語調を和らげる。
「・・・だから聞かせて。君の望みは?」
シンジはしばらく涙を零すことすら忘れていた。そして俯いたとき、足元の紅が視界に入ったことに青ざめて再び腫れた両目に涙を浮かべる。
「・・・・辛かったね。悲しかったね。本当に・・・ごめん」
小刻みに震える手を放し、シンジを両の腕で包み込む。
「言い訳はしないよ・・・ただもう一度、僕に償うチャンスをくれないかい?
・・・聞かせて。君の望みは?」
声を出そうとして、シンジがしゃくり上げる。自分を包んでくれる腕にとり縋り、か細い声で絞り出した。
「・・・けて。・・・・ミサトさんを助けて。アスカを助けて。・・・みんなを助けて・・・!!」
「・・・・一匹目!」
胸の悪くなるような赤の、粘ついた量産機の体液。それがずるずると弐号機の機体表面を流れ落ちる。
平生、弐号機のこんな姿を甘受するアスカではない。だが、何が何でもEVAシリーズを殲滅するという意志が、「戦いは常に華麗に、無駄なく」という信条の前半を黙殺していた。
「一秒だって無駄にできないのよ、今は!」
耳障りな咆哮をあげながら襲いかかってくる次の量産機を地底湖へ突き倒し、プログナイフを叩き込む。
頭部に刃が折れるほどの勢いでプログナイフを突き立てられた量産機の動きが、抵抗から断末魔の痙攣に変わるのを押さえつける腕で感知し、弐号機の体勢を立て直した。
アスカの視界は、三機目を捉えていた。
内部電源の限界を示す数値は、残酷に減り続ける。
「・・・みんなを助けて・・・!!」
絞り出すような声で、ようやく口に出した言葉。カヲルは労るように、小刻みに震える黒い頭に軽く手を置いた。
「・・・君がそれを望むなら」
カヲルが倒れ伏すミサトへ向き直る。加持がミサトのかたわらに膝をついて、カヲルの緩慢な所作を噴き上がる焦燥を必死に押し込めながら見つめていた。
「・・・間に合うのか?」
「あなたはもっとひどい状態だったでしょう。・・・・退いて」
にべもなくそう言い放つ。シンジに微笑みかけたときの柔らかい口調は微塵も残っていない。至極無機的に、だが注意深く、ミサトの脇腹を染める紅の中心にその白い掌を載せた。
外側から見ているぶんには、何が変わったようにも見えない。ただ、出血がおさまりミサトの呼吸がゆったりとしたものになるのははっきりと見てとれた。
「・・・・・」
加持とシンジはそれを殆ど呆然と見守っていた。
ミサトの呼吸が深くなり、再び目を開けるまでに要した時間は、長いようでもあったし、短いようでもあった。
ミサトが一番最初に視界に入れたのは、彼女がかつてフィフスチルドレンと呼んだ少年の姿であった。
「・・・・どういう・・・こと・・・?」
少し混濁した意識にも、彼女がまず試みたのは現状把握であった。
「いや、話せば長いんだが」
彼女が声の主を振り返ったとき、確かに空隙があった。
「・・・・・・・加持?」
「あぁ」
一気に覚めたように、目を瞬かせる。だが、ミサトの反応はシンジのそれとかけ離れていた。やおら目許を険しくして、よれよれのシャツの襟元を掴む。
「・・・・・・生きてたんならとっとと帰ってきなさいよ、この真性莫迦っっっ!!」
ひっぱたかなかったのは、おそらく余剰体力がなかった所為だな、と加持は苦笑した。案の定、次の瞬間ミサトは襲い来た眩暈に身を沈ませていた。
「内臓の損傷を含めて傷が塞がっただけで、失った血が戻るわけじゃありません。立ち上がるときは気をつけて」
カヲルが冷静にそう言い、立ち上がった。
「・・・行こうか、シンジ君」
「何処へ?」
問いは、ミサトと加持のそれが重なったものだった。シンジは、ただ呆然と差し出された手を見つめるばかりだったからだ。
「セカンド・・・・アスカ君を助けに行かなくちゃ」
シンジの目に、ゆっくりと光が戻る。
「・・・・僕に、できるかな」
「一緒に行こう。君が行かなければ、意味がないよ。・・・そうだろう?」
カヲルが微笑む。シンジはやや緩慢な動作ながら、差し出された手をとった。カヲルがその手を引いてシンジを立ち上がらせる。
「行ってらっしゃい。シンジ君」
立ち上がったはいいが、ガクガクしている膝を拳で打つシンジに、ミサトはそう言った。加持を取り残すほどに、あっさりと。
「おい葛城・・・」
「今はそれが先決でしょ。違う?」
「・・・・違わない」
加持はミサトを抱え起こしながら心中で天を仰いだ。・・・こと、割り切りの早さで彼女に敵うものなどこの地上に存在しないのではないかと思う。
「帰ってらっしゃいね。注文はそれだけよ」
「・・・・うん」
決して積極的とはいえないにしろ、ともかくも再建をはじめている少年に、ミサトは微笑んだ。
「エレベーター、まだ生きてる筈よ。私とこの莫迦でここは防ぐから、さっさと乗りこんじゃって」
予備弾倉はもうない。それでもしっかりと銃把に手をかけた。誰かが通路を上がってくる音を、カヲルを除けば一番先に捉えたのだ。
「・・・・・敵じゃありませんよ」
「・・・え!?」
だが、カヲルの言葉は遅かったのだ。ミサトは圧壊した通路の向こうに現れた人影に向かって、正確に発砲していた。
次の瞬間、これもカヲルを除いた3人が硬直する。
硬い音。オレンジ色の光の盾。
「・・・参った。降参。だから撃たないでくれるかな、葛城さん」
ひしゃげた金属塊を乗り越えて姿を現した彼は、武器の所有を否定するように両手を掲げていた。
「・・・・うそ、榊君!? それにリツコ!?」
にこにこしながらホールドアップしている人物を、一目で見分けたミサトは称賛されてしかるべきかもしれない。
そのすぐ後ろに立っているリツコは、こころもち青ざめていた。
「お久しぶり、葛城さん。・・・・それに、加持さん?」
タカミは科白の後半で、僅かに悪戯っぽい笑みをした。加持が露骨に退いたのに気づいたからだ。
「あら、面識あったの」
『榊タカミ・カーライル』がMAGIハッキング容疑で拘禁されそうになった矢先に失踪したという情報は、ミサトに届くことはなかったのである。ミサトが意外そうに加持をかえりみて言った。
「・・・まあな」
「さて、細かい話は後回しってことにしよう。弐号機の活動限界まであと90秒を切ってるよ。カヲル君達を引き留めても悪いしね」
えらく断定的な数字を出されて、流石にミサトが訝る。だが、彼女が何かを口にする前に、カヲルが拗ねたようにそっぽを向いて言った。
「全くだ。・・・行こう、シンジ君」
「あ、うん・・・」
そして歩き出す。どうやらカヲルとも知己らしいのに、やたら対応がつっけんどんであることにシンジの方が済まなさそうな顔をした。タカミはそれへ実ににこやかに手を振ると、やおらリュックのポケットからリュックと同色の小さなポーチを引っ張り出す。
「忘れるところだった。いくら君でも、EVAと素手で取っ組み合いするわけには行かないだろう?」
ポーチが放物線を描いて、振り返ったカヲルの手の中に収まる。
「・・・・!」
受け取った感触に、カヲルが僅かに顔色を変えた。
「君になら適当に使い方、判るだろう? さ、気をつけて行っといで。ソフトウェアのほうは僕が何とかするから」
カヲルは手の中の物を見、シンジを先にエレベーターの方へ行かせた。足早に駆け戻って、ここに至るまでにまたほどけかけている銀の髪を無造作に掴むと、遠慮なく引っ張った。
「痛い痛い」
「・・・・・・・」
思わず屈みこんだタカミの耳に、何事かを小声で告げると勢いよく踵を返した。そしてエレベーターの扉の前で待っているシンジの背中を促して乗り込む。
エレベーターの扉が閉まった。
それを見送り、ミサトはやはり苦笑しつつ扉の閉まるのを見送っていたタカミを振り返った。
「・・・・ヘンなところで知り合いがいるのね。彼、何だって?」
「いや、だいぶ余裕が出てきたみたいで大変いい傾向なんだけど、どうして素直に『ありがとう』って言えないんだろうねぇ」
乱れた髪を括り直しながら、タカミがぼやく。
「え?」
「『長髪が似合わない』んだと。葛城さん、加持さんでもいいや。ハサミ、持ってないかな? ばさばさするし、結んでおいてもほどけるし、僕もどうにかしたいと思ってたんだ。別に好きこのんで伸ばしてる訳じゃないからね。切る暇なんてなかっただけで」
「・・・・・・・」
加持とミサトが言い知れない脱力感に頭を抱える。
「・・・あ、やっぱり駄目?」
「私の髪ゴムあげるから、それで括ってなさい。発令所まで戻れば、マヤか誰かが持ってると思うけど・・・」
そこまで言って、そんな事態ではないことに思い至る。
「それは好都合だね。じゃ、行こうか、発令所」
「ちょっと・・・!」
「いや、冗談事じゃなくて。どのみち発令所には行かなきゃならなかったんだ。・・・量産機を止めるには、ハードウェアを叩き壊しただけじゃ駄目なんでね」
「・・・どういうこと?」
「EVAシリーズ・・・量産型は、葛城さんも知っての通りS2器官を搭載してる。・・・おまけにタチの悪いことには、自己修復能が使徒並。ソフトウェアを叩かないことには、いくらでも動くんだ。送り出した手前、支援はちゃんとしなくちゃね」
「手段は?」
「MAGIを回復させて、量産機をコントロールしている機械脳をクラックする。ゼーレの殲滅と同義と考えて貰って構わない」
淀みない答え。さすがにミサトが絶句する。
「・・・・あなた、榊君、よね・・・?」
注意深く紡がれた科白。タカミが苦笑した。
「・・・・僕は一応、そのつもりさ。別の見方をする人もあるかも知れないね」
「あるいは第11使徒、イロウルとか」
加持だった。ミサトが目をむく。質すようにリツコを見たが、リツコは黙して俯いたまま。
暫時の沈黙があった。
「・・・いいわ、とりあえず見えるものを信じるわよ。それで、あなたの目的は何?・・・事と次第によっては、協力出来るんじゃないかしら、私たち」
「そうかも、知れないね」
タカミは微笑った。先刻よりはいくぶん明るめに。
「あなたたちにとっても、損な話じゃないと思うよ。まあいずれ、僕だけで運べるコトでもないしね。協力して貰えれば有難い」
「迂遠なのはナシよ。時間ないんだから」
「ごめんごめん。適当な言葉が見つからなくてね。―In a word・・・」
穏やかなのに、その一言だけが妙に背筋を寒くするような響きを持っていた。
「・・・・人類補完計画の阻止、さ」