東屋のフェンスの傍に立ち尽くしたまま、僕は彼が走り去った方をぼんやりみつめていた。
…そりゃ、びっくりさせちゃったよなぁ。ひょっとして…ううん、ひょっとしなくても変な人だと思われたよな。う、変質者とかいって通報されたらどうしよう。
確かに柵の上に登るのは危ないから禁止なんだけど…本当は、あんまりにも嬉しくて思わず抱きついちゃったんだ。
ビジターセンターの、野鳥観察フロアから時々姿は見ていた。でも、確信が持てなかった。無論、いくら遠目だといっても人違いなんてありえない。あんな目立つ人、そうそういない。…ただ、夢か、幻でも見ているんじゃないかと思ったんだ。
また逢えるよ。そう言っていたのに、いつまで経ってもこの世界に彼の姿は見つからなかった。
実はすこし不安になってた。
僕が「エヴァのない世界」を望んだ所為で、僕らと彼との接点を切断してしまったんじゃないかと思って。
でも今日、巡回の帰りにたまたまその姿を間近に見つけた。フェンスの上で足をぶらぶらさせてる彼は、崩壊した第3新東京…芦ノ湖の湖畔で歌っていた時そのままだった。
でも、黄昏の橙色ではなく、新緑越しの澄んだ光の中で遠くを見ている姿は、とても嬉しそうで。
何を見つけたのかな?とても急いでたみたいだけど。
僕は柵に凭れて、穏やかな水面を眺める。そこには「お父さんの若い頃に似てきたね」などとあまり心愉しくない評されかたをするようになった僕…碇シンジの顔が映っていた。
僕のことはわかったんだろうか。彼が識っているであろう僕とは、随分変わっちゃっただろうから…ああでもあの身長差はちょっと新鮮だったなぁ。
また逢える…よね?