心臓が破れそうなのは、走った所為じゃない。
この前は、何もできなかった。
君はずっと初号機に囚われたままで。僕のことなんか振り向きもしないで。ただ、シンジ君を「エヴァに乗らなくていいようにする」ためだけに、全てを費やした。
いつだって、神に疎まれた子供達を救うのに一生懸命で。
でも、もういいじゃないか。君の子供達は、この地に満ちた。そのことに、子供達も満足している。セカンドインパクトが起こらなかったのはその証左。
今度は、君が幸せになっていい。
その小径の片側は湿地に続き、もう片方は粗い石組で土手を築いてある。
小径の真ん中に、乱雑に脱ぎ捨てられた靴下と靴。彼女はその石組の途中に腰掛け、白いワンピースの裾をすこしだけ上げて…片脚を池の水面に浸していた。水浴するにはまだ寒い時期だし、時間だ。でも、彼女はその感触を娯しんでいた。
息を切らせて辿り着いた僕を振り返って、彼女はすこし不思議そうに見上げる。変わらない、澄んだ紅瞳。
「・・あなた、誰?」
密かな娯しみを邪魔されて、ちょっとだけ不機嫌? でも、そんな表情も可愛い。
ただ逢いたかった。言葉なんて用意してなかった。…だから、訊いてくれて嬉しい。
「僕はカヲル。渚カヲル。君を捜してたんだよ…レイ」
紅い瞳が、大きく見開かれた。
次頁で言い訳させてください…