Beautiful World

雫Ⅱ

 心臓が破れそうなのは、走った所為じゃない。
 この前・・・は、何もできなかった。
 君はずっと初号機に囚われたままで。僕のことなんか振り向きもしないで。ただ、シンジ君を「エヴァに乗らなくていいようにする」ためだけに、全てを費やした。
 いつだって、神に疎まれた子供達リリンを救うのに一生懸命で。
 でも、もういいじゃないか。君の子供達は、この地に満ちた。そのことに、子供達も満足している。セカンドインパクトが起こらなかったのはその証左。
 今度は、君が幸せになっていい。


 その小径の片側は湿地に続き、もう片方は粗い石組で土手をいてある。
 小径の真ん中に、乱雑に脱ぎ捨てられた靴下と靴。彼女はその石組の途中に腰掛け、白いワンピースの裾をすこしだけ上げて…片脚を池の水面に浸していた。水浴するにはまだ寒い時期だし、時間だ。でも、彼女はその感触を娯しんでいた。
 息を切らせて辿り着いた僕を振り返って、彼女はすこし不思議そうに見上げる。変わらない、澄んだ紅瞳。

「・・あなた、誰?」

 密かなたのしみを邪魔されて、ちょっとだけ不機嫌? でも、そんな表情も可愛い。
 ただ逢いたかった。言葉なんて用意してなかった。…だから、訊いてくれて嬉しい。

「僕はカヲル。渚カヲル。君を捜してたんだよ…レイ」

 紅い瞳が、大きく見開かれた。

次頁で言い訳させてください…