旅人の島

海流の中の島々

「積もる話は終わったかにゃ?」
 真希波マリが港へひょっこりと現れたのは、出航予定のきっちり10分前だった。
 短時間であまりにもいろいろなことを詰め込みすぎた加持の頭は、有り体に言って飽和状態だった。この上、この娘のテンションと付き合う気力はない。
 加持が黙っていると、マリはさも面白そうに加持の顔を覗き込んだ。
「いろんなもの見過ぎて…疲れたってカオだねえ。でも、肚は決まったんでしょ。これからもよろしくね、加持さん?」
 そう言って、手を差し出す。それを拒むほどの理由はなかったから、加持はそれに応じた。
「こちらこそ」
 加持がそう言うと、マリはまた陽気な鼻唄とともに、踊るように桟橋の方へ駆けていく。加持は嘆息した。
『ああ、それと…マリには気を付けろ。あいつも新参のライゼンデで、一応今は俺たちに協力する姿勢を示しちゃいるが…。何分にもイサナが手を焼くほどの問題児フェアラータでもあるし…なにやらあいつには別の目的があるらしいからな』
 ライゼンデは一枚岩ではない。何故なら、組織ではないから。各個人が自身の信じるところに拠って動いている。「海洋生態系保存研究機構」でさえ、その本質は物資を動かす都合上作られたダミー組織に過ぎないのだと。
 だがそれについてはNERVも大きく変わらない。高階はそう言った。
『いくら心許した者でも、迂闊なことは喋るなよ。それが敵ならとんでもないことになるし、味方ならその相手を無用な危険に晒すことになる』

 わかってるよ。加持は内心で独りごちた。

 ――――済まない、葛城。それでも俺は、真実が知りたい。