ひゃく-ものがたり【百物語】:
夜、数人が寄り集まって、かわるがわる怪談をすること。また、その怪談。
とりあえず100話やらなきゃならないものでもないらしい(笑)
Senryu-tei Syunsyo’s Novel Room(Novel-Ⅲ)
Evangelion SS「Ghost stories on a summer night」
第壱話「鏡の中には」
夏といえば、きもだめしが付き物である。
その夜、悪童どもが夜も夜中に教室に集まったのが、他の目的であろう筈もない。学校というところは怪談の吹き溜まりなのだ。
ネタにされたのは、旧校舎はずれの音楽室。古くて錆の入った大きな鏡がかかっているのだが、この鏡を午前4時44分44秒きっかりに覗き込むと、覗き込んだ者の未来、それも死ぬ前の顔が映るという。
(同様の話は腐るほどあるし、話によっては自分ちで盥に水を溜めて覗き込むというテもあるらしい)
だがとりあえず、その学校の音楽室はホンモノらしいというのがもっぱらの噂。物好きにも同時刻に鏡を覗き込んで、翌日ただ普通に映るだけだったことを周囲に広言した直後に心筋梗塞で急逝した中年教諭の話は、いつの事とも判らないのに今なおまことしやかに囁かれている。
真偽はともかくきもだめしのネタとしては格好であるには違いない。で、この場合カモになるのは往々にして一番要領の悪い奴である。
シンジが追い立てられるように教室を出た後、発案者相田ケンスケ、おもむろに口を開いて曰く。
「・・・・・音楽室に入っても、鏡を覗けずに戻ってくるに1000円」
こらこら。
「お、結構大きく出たな?シンジにそんな度胸あるわけないやろ。ワシは音楽室の前まで行って動けんようなるに1000円やな」
共謀者鈴原トウジ、結構非道である。
「二人とも、ひどいねえ」
秀麗な眉を曇らせて、吐息する傍観者渚カヲル。
「じゃ、僕は、旧校舎までたどり着けないに1000円」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
をいをい。
それはさておき、件の時間を過ぎても戻ってくる様子がない。さすがにトウジとケンスケが顔を見合わせた。
「途中で風の音にでも驚いて、腰ぬかしとるんちゃうか?」
「様子、見に行ってみるか?」
そうして皆が立ち上がりかけたとき、転がるようにしてシンジが教室に走りこんできた。顔は完全に土気色で、真っ青になった唇を小刻みに震わせている。
「なんだよ、大丈夫かぁ?」
「みみみみみみ・・・・見た・・・・」
「君の顔が映ってただろう? ・・・・あはは、シンジ君ったら信じたのかい?」
賭けが流れたので結構冷静なカヲル。だが、シンジの震えはとまらない。余りに必死な様子に、流石に気の毒になったか背を擦って宥めた。
「大丈夫だよ、嘘にきまってるじゃないか」
カヲルの言葉に、シンジが頭を力の限り横へ振る。
「違う・・・本当に見たんだ・・・僕の・・・僕の顔・・・・父さんにそっくりだったんだぁぁあああ!!」
確かに、それ以上の恐怖はあるまい。
――――――さしあたっては、気の毒なシンジ君に・・・・合掌。
今宵はこれべく候
第弐話に続く・・・かどうかは、誰も知らない