残照の日々 Ⅱ

 ────シェノレス・シュテス島、神官府本殿。
 その一隅に、アンリーは疲労しきった身体を横たえていた。
 アンリーの実兄であり、本殿の首席枢機官リシャールが見舞いにきたときも、彼は本当に呼吸をしているのかと思うほど静かに眠っていた。
「一向に…疲労の色が消えないね…」
 リシャールの言葉に、ソランジュという医術神官が少し悲しげに俯いた。
「お食事も…ほとんど召し上がられることがなくて…。二日に一度摂られれば良いほうです」
 ふと…アンリーが目を開けた。
「アンリー…私が、分かるか」
 声をかけると、彼は僅かに頭を動かした。茫洋とした暗褐色の目が、ゆっくりと焦点を結ぶ。
「…兄上…」
 リシャールは頷いて、ふっと安堵の息を吐いた。そうして穏やかに問う。
「…起こして済まない。今朝のこと、憶えているか」
「…いいえ」
 アンリーの顔に、表情はなかった。ただ、透明。…何もかもが失せ、身体だけがそこにある。
「なにか…あったのですか?」
「…なんでも無い。休んでいなさい」
 強いて言わねばならないことではない。…何事もなかった。それでいい。リシャールはそのまま立ち上がろうとしたが、アンリーはリシャールが止める間もなく半身を起こして兄に向き直った。
「アンリー…!」
「兄上、マルフ島のほうはいかがですか」
 ルイがマルフ島へ赴いて既に数ヶ月が経つ。アンリーを牀に押し留めようとして身を屈めたリシャールの表情が揺れた。言うべきか迷ったのだ。だがその沈黙が、彼に答えを与えてしまった。
「…まだ、進展はないようですね」
 椅子に腰をおろして、リシャールは言った。
「そのうちルイたちが、吉報をもたらすよ。お前はゆっくりと養生すれば良い」
「…御心配を…かけます」
 アンリーが、視線を逸らす。
 今朝方、アンリーが牀を抜け出し、海に入っていたらしいという報告を受けて、リシャールは様子を見に訪れたのだった。
 神官府から街へ降りる間の坂道をふらふらと歩いているところを見つかったのだが、髪や衣服が砂と塩を纏いつかせていたことから、海辺へ降りていたことが知れたのである。例によって、記憶は抜け落ちていたらしい。
 湯を使わせて砂と塩を落とし、休ませるとそのまま再び眠りに落ちたという。リシャールが訪れた時もまだ眠っていた。眠っているなら妨げまい、と辞去しようとしたまさにその時、アンリーが目を開けたのだった。

 リシャールは、この弟が自分と比較にならない辛苦を乗り越えてきたことを知っている。自分がその器ではなかったために、彼が一身にそれを背負わなければならなかったことも。今彼が病臥している原因を思うと、不可抗力と知りつつやりきれない思いに苛まれた。
 ツァーリの目をかい潜る数年と、戦に費やした日々はアンリーの身体にぎりぎりまでの損耗を強いていた。その反動であろう、という医術神官の言葉に、異議を差し挟む者など居なかった。繰り返される発熱に消耗し、熱が消退している時でもほぼ病臥したままという有様である。しかも、発熱の間隔は徐々に短くなっていた。
「…お前は休んでいいんだ、アンリー…」
 弟は、答えない。ただ深く吐息して、目を閉じた。

 リシャールは今度こそ立ち上がった。帷帳を払い、ソランジュにねぎらいの言葉を掛けてから本殿へ向かう。
 本殿前には規模の大きな神事を執り行う時に使われる、敷石で整備された広場がある。本殿を中心に広場はぐるりと建物に囲まれているが、リシャールが出てきた建物の、広場を挟んだちょうど反対側の棟に、リュドヴィックが病臥していた。
 大神官リュドヴィックが病床についたのは、事態収拾のためにルイがマルフ島へ発った後のことだ。しかしアンリーのような記憶の混乱を呈してはいない。ただ、為すべき事を為し終えて静かに眠りにつこうとしているかのようであった。
 立ち止まり、その建物を一瞥する。
 「大神官の憑代」云々の話はリシャールの耳にも届いていた。
 本気になぞ無論していなかったが、もしそれが真実であれば、弟を縛る存在ものが海神宮に召されれば、弟は自由になれるのかも知れない…と、埒もないことを考えた。
 幼い頃から、アンリーは利発な子供だった。一教えれば十のことを悟り、しかもそれを得意気に話すことをしなかった。一時期、次代の大神官はリシャールでなくアンリーではないかという噂が神官府に流れたことすらあった。アンリーが「奉献」される前の話で、リシャールは既に神官としての勉強を始めていた頃のことである。
 それを聞いたリシャールの心境は複雑であったし、アンリーが「奉献」されたときはもっと複雑な思いにとらわれた。
 リシャールは「奉献」の意味を知っている数少ない人間のうちの一人だった。その重要さ、任の重さ、そしてそれを引き受けることで何か報われる訳ではない、という不遇。…それに比べればあってなきが如き苦労でゆくゆくは大神官という地位に座る自分を思ったとき、果てしない劣等感にかられた。
 歳を重ねる毎に、自我らしきものを失ってゆくアンリー。自由も、矛盾も、葛藤も持たずただ戦い続けて…。
 そういった不自然さを通り越しても、リシャールはアンリーを羨んだ。…何よりリュドヴィックに愛されていたからである。
 ひとはアンリーをリュドヴィックの憑代と言うが、リシャールはそれ以下、傀儡に過ぎなかった。独立達成の後、大神官という椅子に座らせるためだけの人形に過ぎない。
 リシャールはアンリーが奉献された者サクリフィス・ア・ラ・メールとなってエルセーニュから姿を消し、数年後に波の下の者ネレイアの統領として活動を始めた辺りから、おぼろげにそれを感じ始めていた。大切だったから手元に残したのではない。どうでもよかったから、あてにしていなかったから、神官府に残されただけなのだ。
 それを悟ったとき、羨ましさは妬ましさに変わった。
─────アンリーの余命は幾許もない。そして、リュドヴィックの命もまた尽きかけている。
 すべて消えてしまったら、自分は平安を取り戻せるだろうか。
 首席枢機官たるリシャールは、リュドヴィックが病臥している今、実務上は大神官代理であり、国王たるレオンが象徴的な意味しか持たない以上、この国の実権は彼の手の内にあるも同然。
 しかし、彼の胸中は満足の対極にあった。

***

 マルフ島の位置を思えば、一戦してある程度の成果を上げなければ退くに退けない。その焦慮はシルメナ・シェノレス両軍にあったに違いない。
 シェノレスのルイも極力交戦を避けていたし、イオルコス側も当初の熱が冷めて積極的な攻撃を仕掛けることはなくなった。秋神の月リシエラに入ってからの戦闘といえば双方哨戒中の遭遇線が関の山である。
 そもそも島の規模が規模だからそれほどの大軍が駐留できるわけではない。しかし軍を置く以上は兵站が必要となる。延びた補給線はそれだけでも軍にとっては負担であった。

 何処で退くか。

 一戦して勝利、というタイミングが至高であるのは確かだったが、この際吉事でも凶事でも構わないから戦をやめる口実はないものかと両軍が考え始めたその矢先、ルアセック・アリエルⅤ世が王女の誕生を理由に停戦を申し出たのである。
「新しい時代が来ようというのに、このうえ戦もあるまい。新しい時代を生きる者達に免じて…此処は矛を退かぬか」
 突如としてイオルコスまで行幸し、生まれたばかりの嬰児を膝に抱いて族長オレン・ヴァシリスに切々と訴えかけたというから、イオルコスとしても具合の悪いことになった。もともとシルメナ王家は、今は実権はないにしてもいにしえに聖風王を輩出した血筋ゆえに大陸融和の象徴として尊崇を受ける。その裔たるルアセック・アリエルにここまでさせてしまっては、大陸じゅうにイオルコスが無益な戦を断行しているかのような印象を与えてしまう。

 イオルコスは島にちなんでマリアム・ティーラと名付けられたこの王女の降嫁を約束され、ついに矛を収めた。それでも、紛争勃発直後ではさすがに治まらなかったであろう。イオルコスが戦に倦むタイミングを見透かしての介入であった。おまけにこれで、イオルコスが管掌する貿易に関してもシルメナ王家が積極的に介入する糸口をつけたことになる。

「…やっぱり『銀狐』か…」
 停戦の使者を迎えたルイは経緯を聞いて大きく吐息した。事態が一気に終熄に向かうのは有難かったが、改めてその異名ふたつなの意味を再認識させられて背筋を氷塊が滑り落ちる心持ちであったのだ。
 ルイは停戦・講和の条件整備のための折衝にはいるとともに、軍を撤収させる準備を始めた。そしてシュテス島で無聊を託っていたレオンを条約締結の場に立たせるために招聘したのである。
 レオンとしては報せが届いたその日にでも出帆したいところだったが、シェノレスの王としてのレオンが赴くのであれば相応の準備が必要だ。
 船の支度が調うまでの数日が、レオンにはひどく長かった。

***

 回復戦争終結後、王城は再建されつつあった。しかし国王としてのレオンの住居、仮宮はさしあたってエルセーニュの山手にある総督府が改装し利用されている。
 その日、例によってアンリーの見舞いを口実に仮宮を抜け出したレオンは神官府とエルセーニュの街を繋ぐ石畳の坂道を上っていた。
 すると、脇道から亜麻色の髪の女神官が走り出てきた。随分慌てた様子で、レオンの姿を認めると真っ直ぐに駆けてきた。
「え…と、ソランジュさん、だったよな?」
「レオン様、アンリー様がっ…」
 アンリーが本殿を抜け出してしまう話はレオンの耳にも届いていたから、ソランジュがそう言いさして東岸の崖下を指さしただけで状況を察した。
「俺が行くから、ソランジュさんは本殿に応援を」
「は、はいっ!」
 レオンは崖下へ向かう小径こみちに踏み込み、走り出した。
 草の生えた急峻な坂道は滑りやすく、時々尖った岩角もある。だが、夢遊状態のアンリーはここを然程苦もなく通り抜けるらしい。
『でも、いつか怪我しちまうよ…』
 日に日に弱っていくアンリーを見るのもつらかったが、なにより何も出来ない自分が口惜しかった。
 ルイがいない心細さ、国王という立場の微妙な窮屈さ。それらが全て綯い混ざって…こうして朝の心地好い潮風とともに走っていても、残照の薄闇のなかにいるような気がする。
 陽が没したあとの空に広がる雲。そこに残るわずかな光。それさえも刻々と夕闇に呑まれていく。ようやく戦が終わり、平穏になった筈の日々がそんなふうに思えてしまうことが、ひどく苦しかった。
 何故、こんなことになってしまったのだろう。この残照のような日々を手に入れるために、剣を取った訳ではなかった――。
 坂を下りきると、岩がちな海岸線に接する。所々狭い砂浜もあるが、潮が満ちれば隠れる程度のものだ。
 時刻は干潮をわずかに回っていた。
「アンリー、何処だ!?」
 夢遊状態であれば声が届かない可能性もある。だから、レオンは友人の名を呼びながら波打ち際まで走り出てぐるりと周囲を見回した。
 陽の昇る頃は眩しいばかりの陽が差していたが、その時分には雲が出て、清爽な朝日は遮られ…薄ら寒くすらあった。岩がちな海岸線、狭い砂浜の波打ち際を歩きながらその姿を捜す。
 果たして、そそり立つ岩壁と波打ち際の丁度中間あたりにある小さな岩に寄りかかるようにして座っているアンリーを見つけることが出来た。
 ソランジュが発見した時に掛けていったのであろう、その身体には上着がかけられていたが、その下はずぶ濡れだった。緋色の髪も濡れ、潮風に吹かれた所為か結晶化した塩と砂粒を纏いつかせている。
「アンリー!」
 レオンが肩を揺すり、緋色の髪に絡みついた砂と塩の粒を払い落としながら呼びかける。暗褐色の双眸はただ開かれているというだけで殆ど光を失っている。アンリーは揺すられるまま、ほぼ反応がない。その表情には深い絶望だけが刻まれていた。
「この寒いのに海に入ったのかよ…。戻ろう、アンリー。今のお前に海風はきついぞ。こんなに冷たくなっちまって…」
 身体も冷えきり、唇が蒼い。その唇が、かすかに動いた。

「陽が…翳る…判っていたのに…供犠…当然の報い…罪…」

「アンリー…?」
 言葉というより単語の羅列。譫言めいた響きに、レオンは翳ってしまった空の所為だけではない薄ら寒さを感じて声を張り上げた。
「しっかりしてくれ、アンリー! まだ…俺は南の海を見てないぞ。海を南に渡る方法…教えてくれるんじゃなかったのか。一緒に行くんだろ。ルイが船を造ってくれるんだろ。常世国じゃなくて生きた人が住んでる大陸があるんだろ!」
 不意に、暗褐色の双眸が焦点を結ぶ。
「…レオン」
「アンリー…俺が、わかるよな?」
「…あ…あ、わかる…」
 幾分声が嗄れてはいたが、アンリーははっきりとそう言った。
「うん、じゃぁ帰ろう。砂と塩を落として、ちゃんと温かくして寝てろって」
 レオンが肩を貸して立ちあがると、アンリーも自身の震える膝を片手で軽く打って何とか立った。少しふらつきながらも、歩を進める。
「…わかった。…済まないな、また出てきてしまったのか、私は」
「そうらしいな。憶えてないのか、やっぱり…」
「悪い夢ばかり、見る…。時々、自分が起きているのか眠っているのかわからなくなるんだ。…ああ、ソランジュには悪いことをしたな。彼女も探しに来てくれたのか」
 自分に掛けられた上着が誰のものかに気付いたらしい。
「そうだぞ、あとでちゃんと謝れ。まったく、この気紛れな病人に毎度丁寧に付き合ってくれるんだからなぁ…頭が下がるよ」
「ソランジュ…彼女は叔母上がエルセーニュで療養していた時にも、傍についていてくれたらしい。当時はまだ巫女だったと言っていたな。優しいひとだよ。そしてつよい」
「そう思うんなら、あんまり手を焼かすなよ?」
「気をつけよう」
 アンリーはかすかに笑った。そして、その笑みを口許に残したまま、言葉を続ける。
「…そうだな、約束がまだだった…」
「うん?」
「南の海。常世国ニライカナイの向こうさ」
「航路、見つかったのか!?」
 思わず、レオンの声が跳ね上がる。だが、それにすぐ答えることなくアンリーは訊いた。
「…レオン。ソランジュに聞いたが、もうすぐ出発だろう?」
「あ、ああ。船団が調い次第って聞いてる。ようやくマルフ島の件が片付きそうなんだとさ。〝注文通り出番を作ってやったぞ。とっとと来い〟って、ルイから手紙もらった」
 レオンの苦笑を、アンリーは温かなまなざしで見遣った。そして、口を開く。
「帰ってきたら…海図を見せるよ」
「本当か!?」
「まだ未完成だ。だが、あと…もう少し。ルイも帰ってきたら、船を造ってもらって…この海を渡る海図を完成させよう。そうしたら…ああ、ここから先は、レオンが務めを果たして帰ってきてからの楽しみにとっておこうか」
「何だよそれ!気になるな」
「私は、シュテス島を去ってから…ヴァンと一緒に南の海を調べて回った。風と、島と、海流と…それは確かにツァーリとの戦に勝つためではあったが…もう一つ、大切な目的があったんだ。
 お前が帰ってきたら話す。…お前が王という役割を窮屈に思ってるのは知っているが、務めを果たしてくれ、レオン」
「えらく気をもたせるなあ。…解ったよ、文句言わずに頑張ってくるさ」
 そう言ったレオンにアンリーが見せた微笑は、あまりに穏やかで…最近は病み疲れた表情しか見たことがなかったものだから、レオンは暫く言葉を継げずにいた。
 そのうちにソランジュと彼女が呼んだ応援の神官が到着し、アンリーを担架に乗せて運んでいった。担架を見送ったソランジュが深々と頭を下げる。
「すみませんレオン様」
「あ、ソランジュさん、これ、上着。あなたのでしょ。あいつ、最近あまり喋らなくなったんでちょっと心配だったけど…今日は珍しく…よく話したよ。ちょっと安心した」
「そう…ですか」
 ソランジュの顔が一瞬青ざめた後に笑みのかたちを造ったのに気付いてはいたが、レオンはそれ以上深く訊くことをしなかった。アンリーの容態が決して芳しくはないことくらい解っている。だが、レオンにはどうすることもできないのだ。
「俺はもうすぐ出帆するけど…アンリーをよろしくな」
「はい…」
 その笑みは今にも泣き出してしまいそうな危うさを含んでいたけれど…彼女はしっかりと頷いた。ソランジュとはそこで別れ、レオンはもときた道を戻り始めた。自分が今ついていっても、邪魔になるだけだろう。あとは彼女に任せるのがいい。

 ――――――優しいひとだよ。そしてつよい。

 アンリーの言葉が甦る。ほんの子供の頃から、アンリーはシェノレスをツァーリの軛から自由にするために自身を殺して戦い続けていた。それなのに、周囲のアンリーを見る目は決して温かくはない。その実力を認めながら、よく思わない者もいるということを…レオンも知っていたし、その理不尽には少々腹を据えかねていた。
 だから、ソランジュのように真摯に接してくれる者の存在は有難かった。ルイと同じく、病身の友人を置いて行くのはひどく気掛かりではあったが、こんな女性ひとが傍に居てくれるなら…アンリーも少しは気が休まるのではないかと思ったのである。
 カザルで熱に倒れる直前の様子が、今も気に掛かっている。あの時、何かがあったのだ。王太子のことだろうか。それとも他に。
 アンリーは勁いし、冷静で、間違わない。それがずっと、あまりにも当たり前だった。だからいつも頼っていた。だがアンリーも血の通った人間だ。辛いことだってあったはずだ。傍目には鋼の如きアンリーの精神こころが実は累卵の危うきにあったとして、何の不思議があるだろう。
 アンリーは何も言わない。周囲に何を言われようと一顧だにせず、ただ黙々と回復戦争のために道を備え、開戦後はレオンをずっと支えてくれた。
 今のアンリーに必要なのは休養と心の安寧、そして希望だ。海岸に蹲っていた時の、硝子玉のような双眸は、ひどくレオンの胸に刺さった。弱りきった身体を置いて、今にもその魂がどこかへ抜け出てしまうのではないかという錯覚に陥りそうになり、思わず声を大きくしてしまった。

 希望か。レオンは立ち止まり、眼下に広がるシェノレスの海を見渡した。

 南海航路。きっと、今のアンリーをつなぎ止められるとしたら、南の海が持つ可能性だけではないだろうか。
 しかしそれさえも、レオン一人ではどうしようもないのだ。ほら見たことか、海神の子だなんて大上段振りかぶっても、幼馴染みひとりの助けにさえなれないではないか。
 だったらせめて、自分にできることでアンリーの憂いを絶ってやりたい。
 それは今…シェノレス国王という役割を、きちんと演じきること。マルフ島の紛争はシルメナ王ルアセック・アリエルⅤ世の采配よろしきを得て収束に向かいつつある。そのかたちを調えるために海神の子・シェノレスの国王という存在が必要なら、それを完璧にこなしてみせよう。