篝火は消えない

西方シリーズ

西方奇譚Ⅴ

翌朝…というより、次にエルンストが目覚めたとき、起きて出てみるとあの最初の部屋から人の気配がした。 四角い窓は一面黒く塗り潰され、あの文字が何列も現れては消える。当然、操作卓の前の椅子にはサーティスが座っていた。「エルンスト」 椅子から立ち...
西方シリーズ

西方奇譚Ⅳ

此処よりはるか東方に、ツァーリという国が、あった。 百数十年前の「大侵攻」により、一躍その勢力圏を拡げた国である。王家と、「大侵攻」に大功のあった王弟にその始祖を持つヴォリス宰相家が実権を握っており、両家は何代にもわたり婚姻によって深い血の...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅲ

確か母が病死したときも、こんなには悲しくはなかったように思う。 目の前で消えようとしている命。絶対に失いたくないものであるのに、それをここに留める力は、自分にはなかった。 無力だとわかっているから、声が涙声になる。終いには何も言えなくなって...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅱ

サーティスと呼ばれたその少年が客間で待たされた時間は、そう長いものではなかった。「お呼びだてして、申し訳ありませんでした」 扉が開き、腰を覆うほどの艶やかな黒髪の、三十ばかりの女が姿を現した。「イェンツォの“老”・サーティス様…初めてお目に...
篝火は消えない

西方奇譚Ⅰ

雨が、降っている。 彼は肩と脇腹の拍動痛に耐えながら息をひそめ、雨音に混じる荒々しい足音に耳をそばだてていた。肩の傷はともかくとして、脇腹の傷からは押さえている手を真っ赤に染める程の出血があった。 外を数人の足音が通りすぎるのを聞き、深い息...
西方シリーズ

西方奇譚

サーティスと、エルンストの出会い。…それは、「篝火は消えない」の裏面を流れるもう一つの物語、その始まりとなる。
篝火は消えない

西方夜話・・・その後

ここまでおつきあい下さった方、本当にありがとうございました。「西方夜話」はこれにて完結。まったく、「お姫様と王子様のらぶすとぉりぃ」路線を完全に踏み倒した格好ですが、珍しいことにハッピーエンド(本当かい?) 履歴を見てて我ながら顎が抜けそう...
篝火は消えない

西方夜話Ⅹ

「エルンストは、もうツァーリに慣れた頃でしょうか」 はるか東を眺めやりながら、愁柳が呟くように言った。「あれも畢竟、順応性の塊だから…今頃結構いい役に就いてるかも知れないな。悪い女に引っ掛かって身を持ち崩しているという可能性もなくはないが…...
篝火は消えない

西方夜話Ⅸ

数年前のあの夜、エルンストはある国の司令官から龍禅軍総司令官の暗殺を請け負って、龍禅軍の司令部に潜り込んだのだ。 ────陣屋の警備は、エルンストにとっては余りにも手薄だった。総司令官の陣屋の側まで来ると、エルンストは陣屋の中の気配を探り、...
篝火は消えない

西方夜話Ⅷ

「ナルフィ、あなたは一刻も早くこの国を離れてください」 愁柳は、穏やかにそう言った。一瞬意味を飲みこみそこねたナルフィは、思わず愁柳を見つめ返す。「…戦が、始まるんですよ。お姫様」 横で剣の手入れをしながら、エルンストが補足した。「…戦が…...