篝火は消えない

巣立ちの唄

繚乱の風

早春のツァーリ。花が散る下で 一つの残酷な再会があった。 エルンストはまだそれを知らない・・・・。
巣立ちの唄

妖精の森

「その館には妖魔が棲む」 戦争が始まる数年前のツァーリ、王都の森。そんな噂がたった古い館があった。衛兵隊に身を置いたエルンストがそこで出会ったのは・・・ エルンスト一人称という珍しいお話。
残照の日々

残照の日々 Ⅴ

─────エルセーニュ、神官府本殿の大神殿。 神官府の東端に位置し、最初に朝日を受ける大伽藍である。 その内陣で、大神官リシャールは神像を前にして瞑想を続けていた。高窓は無人の身廊に静謐な光を投げかけるが、内陣はいま薄闇に沈んでいる。 遠く...
残照の日々

残照の日々 Ⅳ

「ア、アンリー様?」 ソランジュが薬を調えた盆を携えて帷帳を開けた時、起き上がって寝台を下りようとしているアンリーを見つけて、少しだけ慌てた。また、夢遊状態に入ったのかと思ったのである、だから、ソランジュを見たアンリーの台詞にはもっと驚かさ...
残照の日々

残照の日々 Ⅲ

マルフ島、シェノレス陣。 国王レオンを幕屋に迎えたルイは、形式を整える為の報告を済ませてしまうとさっさと人払いをした。「おう、よく来たな。どうした、今日はえらく神妙だったじゃないか」 そう言ってどっと疲れた態ていを露わにした友人の背を軽く叩...
残照の日々

残照の日々 Ⅱ

────シェノレス・シュテス島、神官府本殿。 その一隅に、アンリーは疲労しきった身体を横たえていた。 アンリーの実兄であり、本殿の首席枢機官リシャールが見舞いにきたときも、彼は本当に呼吸をしているのかと思うほど静かに眠っていた。「一向に…疲...
残照の日々

残照の日々 Ⅰ

シュテス島、エルセーニュ。 緋色の髪をした長身の青年が、放心したように早朝の海岸線を歩いている。 見るからに足取りが危ないというふうではなかったが、ひどく面窶おもやつれしたうえ白い神官衣に包まれた身体はすっかり痩せ衰え、深い赤褐色の瞳には生...
残照の日々

残照の日々

ツァーリの軛を断ち切る為に自分ができることがあるというなら、そうしよう。神官府が、大神官である父リュドヴィックが、アレンの後身たることを自分に望むというならそれに応えよう。 戦に身を投じることによって、自身の望みを叶えられると…アンリーは信...
南海の風神

緋の誓約

朝課に入る前の潔斎で浴びた水が、亜麻色の髪を伝って落ちる。「…どうしたの、ソランジュ」 虚空を見たまま硬直しているかのように見える少女に、黒髪の女神官が声をかける。「あ、クロエ様。いえ、何でも…」 我に返ってあたふたと、それでもきちんと手順...
南海の風神

南海の風神 Ⅴ

宿下がりしていたアニエスが薬石効なく病没した頃から、アンリーが街へ降りてくる回数が減ってきた。 神官府内でもアニエスの逝去をきっかけにまた反ツァーリ感情が高まり、衛視寮の神官を中心にかなりざわついているといった意味のことをアンリーが呟いてい...